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エリシュカ&札響の名曲コンサート「古典神話の主人公たち」

本日、ラドミル・エリシュカ指揮、札幌交響楽団による名曲コンサートを聴いてきた。


■札幌交響楽団 名曲コンサート
~音楽で紡ぐ物語4「古典神話の主人公たち」
ラドミル・エリシュカ指揮 札幌交響楽団

日時:2012年11月25日(日) 15:00開演
会場:札幌コンサートホールKitara
曲目:
 ベートーヴェン:バレエ「プロメテウスの創造物」序曲
 ハイドン:交響曲第88番ト長調「V字」
 モーツァルト:交響曲第41番ハ長調K.551「ジュピター」

(アンコール)
 モーツァルト:歌劇『フィガロの結婚』序曲

このシリーズは、定期演奏会とは別枠で親しみやすい曲を廉価で聴かせるというコンセプトで、11月頃にエリシュカが登場するのは毎年恒例となっている。今回は珍しく古典派作品の特集である。エリシュカは既に全国のオーケストラで得意とするチェコ音楽を振っているが、今回のようにチェコもの以外のレパートリーを聴くことができるのは、札響ならではだろう。エリシュカは、チェコ作品ばかりでなく独墺作品も得意としているが、我が国でベートーヴェンとハイドンを演奏するのは今回が初めてとなる。

どの曲も、この指揮者らしく、きわめてオーソドックスな秀演だった。細部まで音楽が、あるべきところに収まっている安定感。古楽奏法全盛の今日では古風なスタイルかもしれないが、ヨッフム、ザンデルリンク、スウィトナー、ドラティ等、中欧の名匠たちの系譜に連なる解釈であり、それは老練な手腕に裏打ちされている。このような演奏に出会えるというのは、いまや欧米においてすら稀有なことだろう。

エリシュカのモーツァルトは、これまで交響曲第38番(大阪フィル、2008)、ピアノ協奏曲第24番(札響、2008)、ヴァイオリン協奏曲第3番(札響、2009)と聴いてきたが、今回はいっそう雄弁で素晴らしかった。それは、エリシュカと札響の関係の深まりが反映しているのだろう。なによりオケが良く鳴っていて、音色に深みがあり、弦と管のアンサンブルに密度があった。今回は3曲とも、冒頭にトゥッティが鳴るが、それを聴いただけでもグッと充実した掴みに惹きつけられた。

以前の札響ならば響きがもっと薄く、小編成な古典派作品では、隙が露呈することもあっただろう。しかし、今回、マエストロの細かな指示に対する札響の反応には自発的な呼吸が感じられ、それが音楽にこれまで以上に豊かな表情を生み出していた。先日発売されたばかりの新世界交響曲のCDを聴いても思ったが、エリシュカ&札響の関係は年を重ね確実に熟成している。

例えば、ハイドンやモーツァルトの交響曲のメヌエット。古典派の交響曲のメヌエットは、繰り返しが多いので退屈させずに聴かせるのは結構難しいことだと思うが、今日の演奏は、良い意味で緩い膨らみがある優雅なもので、まるで歌劇場付の手錬のオケを聴くかのようだ。なるほど、ハプスブルク帝国に通じる中欧の伝統を感じた。

ハイドンが意匠を凝らした「V字」交響曲は愛すべき傑作だが、私が日頃愛聴しているラトル&ベルリン・フィルのCDと比べても味わいに遜色なく、その解釈には非常に共通したものを感じた。ちょっとした休符にさえ滲むユーモアこそハイドンの愉しみで、特に気品に溢れた2楽章の美しさは強く印象に残った。


そして、ジュピターはやはり終楽章が圧巻だった。ここでも、各声部のバランスが素晴らしく、フーガの絡み合いの中で札響の風合いがしっかり生きていている。古楽奏法によるスパイシーな味付けの演奏が主流になりつつあるが、このニュートラルながらも十分にアーティキュレーションの魅力が際立った演奏には、かえって情報量があるのだ。

さて、これは、ますます12月の第九が楽しみでならない。古今の指揮者が頂きを目指す最高峰、きわめつけに精密なベートーヴェンの傑作からエリシュカは何を引き出すのだろうか。


札響特別演奏会「札響の第9」

 ベートーヴェン:交響曲第9番「合唱付き」

 12月8日(土)15:00~
 12月9日(日)15:00~
 札幌コンサートホール


 ラドミル・エリシュカ指揮 札幌交響楽団
 安藤 赴美子(sp)
 手嶋 眞佐子(ms)
 望月 哲也(t)
 黒田 博(t)

 札響合唱団
 札幌アカデミー合唱団
 札幌放送合唱団
 合唱指揮:長内 勲


エリシュカ名曲コンサート201211

テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

エリシュカ&札響のオール・ドヴォジャーク・プロ

先日、エリシュカ&札響によるオール・ドヴォジャーク・プロを2日にわたって聴いた。これぞ鉄板コンサート。

札幌交響楽団 第548回 定期演奏会
~R.エリシュカ チェコ音楽シリーズvol.5~

2012年4月27日(金) 19:00~
2012年4月28日(土) 15:00~

会場:札幌コンサートホールKitara

指揮 ラドミル・エリシュカ(首席客演指揮者)

曲目:
ドヴォルジャーク スケルツォ・カプリチオーソ op.66
交響詩「野鳩」 op.110
交響曲第9番ホ短調op.95「新世界より」


ドヴォジャークは換骨奪胎の名手で、先人のスタイルを取り入れた作品を数多く残している。例えば昨年聴いたスターバト・マーテルにも、バロック、古典派からロマン派まで様々な様式が入り交じっていた。これはドヴォジャークがオリジナリティに乏しい剽窃家だったというより、生真面目な勉強家だったことを示している。

ドヴォジャークの作品の中でもとりわけ人気が高いのは、今回演奏された「新世界」交響曲、それにチェロ協奏曲と弦楽四重奏曲第12番「アメリカ」だろう。これらは、いずれもドヴォジャークの米国生活を反映した作品で、親しみ易い主題を特徴としている。ドヴォジャークは、滞米中、現地の音楽に強い興味を示し、特に黒人霊歌やフォスターの歌曲を好んだという。ドヴォジャークは生来優れたメロディ・メーカーだが、特にアメリカ時代の3曲が我々の耳に馴染むのは、欧風とは肌合いの異なる米国的なポピュラリティを換骨奪胎したからだろう。しかし、このシンプルな魅力は反面、危うい通俗性にもなる。

「新世界」交響曲は、長く鼻白むような通俗名曲とみられてきた。
例えば有名な2楽章は、コールアングレで奏される「家路」だけでなく、他のパートも過剰なほど旋律豊かだ。だが、それだけにかえって難物ともいえる。多くの指揮者は、これらの旋律を効果的に歌わせることに注力するだろう。しかし、そうすることでむしろ通俗性が強まり、「家路」のメロディに気の利いた伴奏がついた平板な音楽に堕してしまうことも多い。

今回、エリシュカの「新世界」を聴いて改めて思ったのは、響きのパースペクティヴだ。この2楽章では、コールアングレの主題が郷愁を誘う一方、弦の旋律は慎ましやかに抑制されている。この音響的な遠近感の巧みさ。表立って情緒的に歌うでもない。かといって歌心が乏しいわけではない。美しい旋律が喚起するのは情感だけではない。奥に控えても耳をそばだたせるような感興があり、全体としては精妙なポリフォニーとなって響きに奥行きと広がりを生んでいる。例えていうなら染付の磁器のようなもので、名品は肌合い美しさが文様を浮き立たせ、質感に深みが加わるのだが、同じ絵柄でも、これが絵も地もくっきりとフラットだったらワゴンセールの安物となるだろう。

これ以上ない程にゆったりとしたテンポの2楽章(東フィルとの演奏よりさらに遅く感じた)を聴いて、こんなことを思った。これは2楽章ばかりではない。エリシュカが振ると雄弁な旋律も、時に交響的テクスチャに仕える役にまわるが、それにより表に立つより全体として説得力を増すのだ。これはやはり名人芸なのだなと思った。

しかし、これはエリシュカの個性的な解釈というよりは、本来、ドヴォジャークの音楽とはそういうものではないだろうか。例えばプラハ弦楽四重奏団の演奏で弦楽四重奏曲第12番「アメリカ」を聴いてみるといい。特に2楽章や終楽章の素朴なコラール風の旋律が現れるところなど。この旋律の絡み合いから生まれる響きの質感は、エリシュカの「新世界」と同種のものだと気づくだろう。

スケルツォ・カプリチオーソと交響詩「野鳩」については、おそらく「新世界」ほど演奏経験がないからだろう。1日目は技術的にまだこなれていない不満もあったが、2日目の演奏は十分な完成度だった。

スケルツォ・カプリチオーソは、おそらく札響初演。これも華やかで、頻繁に弦と管のくすぐりが交錯する意外に手強い曲だが、昨秋のラプソディ特集の時と同様、オケから活き活きとしたノリを引き出していた。

札響による「野鳩」は、2008年に、やはりチェコの名匠として知られるマルティン・トゥルノフスキーの指揮で聴いた。随分前のことなので両者を詳細に比較することはできないが、トゥルノフスキーの解釈は、とても折り目正しくこじんまりしたもので「野鳩」は地味な曲だけにやや物足りなく、同時に演奏したブラームスの交響曲第4番の方が印象深かったと記憶している。

一方、今回のエリシュカによる「野鳩」は、交響詩の物語の展開が見事で、「新世界」と同様、よく計算された響きのパースペクティヴが要所で絶妙な効果を生んでいた。また、札響に対してはこれまで以上に踏み込んだ表情付けをしていたようにも感じた。

札響は今回も良い仕事をした。プロに対し甚だ失礼ながら、やはり札響は健気だと感じた。両日共に「お仕事」という醒めたところが全くない。我らがマエストロに精一杯応えようという熱気は札響独特のもので、それは表現に十分現れていて、聴いていて清々しいものがあった。

それにしても、よく考えるとエリシュカはまことに不思議な指揮者だ。この指揮者は、気分によるムラが少ない職人タイプの音楽家だ。奇抜な解釈はなく、どのオケに対しても、どの作品に対しても、手法は常に一貫しているように思う。だから長く付き合っていると、どのような演奏となるか、なんとなく予想がつくようなところがある。しかし、実演に接する度に必ず新たな発見がある。「この作品は本来こういうものなんだよ」と講義を受けているかのようだ。改めて畏るべしと思う。

なお、本演奏会はライヴ録音されており、これまでと同様、CD化が予定されている。

テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

下野&札響の「ドイツ音楽」特集

3月になり大分春めいてきたと思ったが、先週土曜の札幌はあいにくの雪模様。今年度最後の札響定期に行ってきた。

第547回札幌交響楽団定期演奏会

2012年3月3日(土) 15:00-
札幌コンサートホールKitara

演奏:札幌交響楽団
指揮:下野 竜也
ピアノ:デヤン・ラツイック
コンマス:伊藤 亮太郎

曲目:
ブラームス:ピアノ協奏曲 第3番(原曲:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品77 ラツイック編)
ブルックナー:アダージョ(原曲:弦楽五重奏曲 ヘ長調 スクロバチェフスキ編)
ヒンデミット:交響曲 「画家マティス」

変化球だらけの凝ったプログラム。キーワードは「編曲」だ。
下野は評判が良く、盟友アリス氏がいつも絶賛しているので気になっていた。実演に接するのは今回が初めてだ。下野はプレトークで選曲の妙について語っていて大変面白かった。

ブラームスのピアノ協奏曲第3番(本来は2番までしかない)は、ラツイック自身がヴァイオリン協奏曲をピアノ用に編曲したもので、アトランタ交響楽団とのCDも出ている。オケのパートはそのままだという。線的に歌われるヴァイオリン・ソロを鍵盤でやるのだから当然無理があるのだが、ラツイックはピアニスティックな技巧を駆使して効果的に聴かせていた。結果、原曲の渋くロマンチックな味わいよりも、ピアノとオケが細かに掛けあうアンサンブルの面白さが際立った。ピアノも上手いが、それに対するオケの反応も良く、小技の応酬が楽しい。ザグレブ生まれの気鋭、ラティックは華やかなタッチのピアニストで、かなり腕が立ち、こういうあざといことをやっても嫌味がない。シプリアン・カツァリスのような個性で、編曲の妙を楽しんだ。

一方、ブルックナーの「アダージョ」は、編曲とは思えない程にこの作曲家らしいもの。6番や8番交響曲の緩徐楽章を思い起こさせる。ブルックナー節は、室内楽曲でも交響曲でも基本的に一緒だからかもしれないが、違和感なく浸ることができた。こうして聴くと、札響の弦は厚みが増して本当に良くなったと思う。ホールの空気に溶ける澄んだ高弦が美しく、中間部の低弦の歌が沁みた。終演後、相変わらず吠えるようなブラボー屋がいて閉口したが。

そしてヒンデミットの交響曲「画家マチス」。これも大好きな傑作だが、なかなか実演を聴く機会は少ない。作曲者自身によるオペラからの編曲というのが、今回の選曲の理由だ。大変ユニークなオーケストレーションで、ゴシック建築にように積み上がる対位法的な音楽は、ナチスが批判した「ユダヤ性」よりむしろ正統的なドイツ調でユダヤ的な粘っこさは薄い。こうしてプログラムを眺めると、今回の選曲は、かなりひねた「ドイツ音楽」特集ともいえる。

下野は、各パートを膨らみのある呼吸で立体的に鳴らし、きっちりと組み上げる。これにはモダンな味わいとロマンチックな風格が両立していて、若いのにちょっと日本人ばなれしたところがある。特に気付いたのは、そうした指揮のもとで管が魅力的に鳴っていること。管の場合、呼吸に膨らみがあると特に調子がいいのだろう。札響は個性的な音色の名手がいて素晴らしいソロを聴かせてくれることも多いが、時に響きが平板になることもある。今回は木管、金管ともに伸びやかで、とりわけフルート、オーボエが素晴らしかった。

客入りは、悪天候もあり6割ほどか。内容が良かっただけに、ちょっと寂しい。


ところで、今月21日、恒例の札響の東京公演がある。
昨年、チクルスで聴いた尾高のベートーヴェンは、潔いほどに正攻法に徹したものだった。この公演は札響の今を聴くには最も相応しいものだろう。在京の音楽ファンには是非ともおすすめしたい。

ホクレン・クラシック・スペシャル
札幌交響楽団東京公演


日時:2012年3月21日 (水) 19:00 開演 (18:30 開場)

指揮 : 尾高 忠明
管弦楽 : 札幌交響楽団

場所:サントリーホール

曲目:
ベートーヴェン : 交響曲第7番 イ長調 op.92
ベートーヴェン : 交響曲第5番 ハ短調 op.67
http://www.sso.or.jp/concerts/2012/03/post-111/

テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

高関健&札響によるトゥーランガリラ交響曲

先週の土曜、札幌交響楽団の定期演奏会でメシアンのトゥーランガリラ交響曲を聴いてきた。

第546回札幌交響楽団定期演奏会
2012年2月11日(土)15:00
札幌コンサートホールKitara

メシアン:トゥーランガリラ交響曲

札幌交響楽団
指揮:高関 健

オンド・マルトノ:原田 節
ピアノ:児玉 桃
コンサートマスター:伊藤亮太郎


オーケストラビルダー高関健の面目躍如たる秀演で、今回をもって退任する札響正指揮者としての総決算といった感があった。オケも会心の出来だったのではないだろうか。

私は、この曲が大好きで録音は何種類か聴いたが、実演に接するのは初めてだった。この10楽章80分あまりの大作は、非常に理知的に作曲された現代音楽でありながら、調性的な音型が繰り返され、まるで映画音楽のような通俗的な面白さもある。サンスクリットから造語した「トゥーランガリラ」という題名も、ウルトラ怪獣のような奇妙な妖しさを漂わせていて、独特に艶かしい音響はオタク心をくすぐる。

ステージから溢れんばかりの大オーケストラは、13種類もの打楽器(シンバルやドラムに加えマラカスや木魚、タムタム等も。なぜかティンパニーがない!)やジュ・ド・タンブル、チェレスタ、ヴィブラフォンを含み、それにピアノと電子楽器オンド・マルトノが加わる独特の編成で壮観だ。

実演に接して感じたのは、オーケストラの響きの妙。これはなかなか録音では分からないものだ。これだけの大オーケストラが、後期ロマン派のように厚ぼったくならずに隅々まで色彩的によく鳴っていて、様々な楽器の音色が塗りつぶされずにクリアに聴き取れる。正直、もっとケバケバしい音楽かと思っていたが、全体を通し響きが澄んでいて古典的な趣すら感じた(高関はプレトークで主要な音型、旋法、リズムについて説明し、「バッハを思わせる」と述べていた)。

これはメシアンの作曲の妙と共に、高関の緻密な組み上げの成果だろう。素人の耳にも高関が複雑なスコアを徹底的に分析して、見通しのよい流れに整理していたことを感じた。特に何層にも絡みあうリズム処理の鮮やかさは感嘆するばかりだった。

二人のソリスト、ピアノの児玉桃、オンド・マルトノの原田節は、さすがにこの作品を熟知した第一人者だけあって説得力があった。児玉のピアノは豊かな音色と鮮やかな技巧で強靭な要となっていたし、原田のオンド・マルトノは楽器の珍奇さ以上に表現の豊かさが印象的で、オーケストラの中での独特の音の浮き立たせ方が見事だった。

それにしても、ここ数回の高関による札響公演は一層良くなったように思う。それが指揮者のせいなのかオケのせいなのかはわからないが。高関は持ち前の堅実な構成感に加え、これまで以上に色彩感が出てきたように思う。これからも札響とは良い関係を保ってもらいたいものだ。

※ちなみに高関氏のTwitter記事によると、この曲を氏のレパートリーに加えたとのことだ。またいつかどこかで聴けるかもしれない。

テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

エリシュカ&N響でシンフォニエッタを聴く(2012.1.13/14)

先週末に上京し、ラドミル・エリシュカが客演したNHK交響楽団の定期演奏会を2日にわたって聴いてきた。

■NHK交響楽団~第1718回定期公演

日時:2012年1月13日(金)19:00開演 (※FMにて生中継、TV放送収録)
          14日 (土) 15:00開演

指揮:ラドミル・エリシュカ
コンサートマスター:篠崎史紀
NHK交響楽団

会場:NHKホール

演目:
スメタナ:交響詩「ワレンシュタインの陣営」作品14
ヤナーチェク:シンフォニエッタ
ドヴォジャーク:交響曲 第6番 ニ長調 作品60

マエストロ、エリシュカのN響定期への登場は2回目。「我が祖国」を振った2009年2月のデビューはセンセーショナルな成功をおさめ、聴衆の投票による「2009年で最も心に残ったN響コンサート」では第一位に輝いた。今回メインの演目である2曲は札響で既に取り上げ、CDにもなっている

今回は存分に引き出されたN響の底力に感嘆する一方、札響の魅力も再認識できた。マエストロの解釈に大きな変更はなかったように思える。しかし、音楽の印象はオケにより若干異なるものとなった。

特に差を感じたのはドヴォジャークの交響曲第6番だ。この作品は、ドヴォジャークがブラームスの影響を受けつつスラヴ色を強く打ち出した野心作で、ボヘミア的な感興に溢れている。しかし、演奏機会は7番以降の交響曲と比べてかなり少なく、おそらくN響にとって初演、したがって日本のオケによるライヴがオンエアされるのも初めてだろう。

札響との演奏は旋律の歌わせ方にチェコ的な息吹を感じるものだったが、今回のN響の演奏はブラームス流のドイツ的構成感が際立っていた。実に立派な演奏だ。特に印象的だったのは第2楽章、艶やかな弦が木管と共にフレーズをなめらかな起伏をもたせ深い響きへ導く様は実に格調高く、パセテックに転ずる部分でのティンパニとのアンサンブルも冴えていた。また、第4楽章の終結部、弦が声部を受け渡しながら最高潮を迎えるアンサンブルは圧巻だった。

N響は札響より各声部共に響きに芯があり、弦と管のコンビネーションに隙がない。つまりは技術的に上かもしれないが、呼吸への感応性という点では札響の方が優れ、変化に富んで魅力的に思える部分もあった。例えば第1楽章の冒頭から札響の演奏には旋律が流れるように立ち上がり、吹き抜け、変転していく心地よさがあったが、それがN響だと「主題の提示」に基づいてきっちり積み上げられていくようで、そこが少々くどくも感じられた(贅沢な不満だ)。これは、演奏の難というより作品の性格かもしれない。おそらく7番ならこうは思わなかったろう。こうした違いが、指揮者の解釈ではなく、オケの個性と作品の多面性から現れているのが面白い。同様のアプローチでも光の当たる方向によって印象は変わるのだ。

難曲シンフォニエッタは今回の方が完成度が高かった。特に2日目は遂に到達した完成形とも言うべきもので、マエストロとしても会心の出来だったろう。

演奏の特徴は、札響の時に述べたと同様、重厚な迫力よりも室内楽的な精妙さを追求したものだ。前のめりにドライヴし勢いで聴かせる演奏が多い中、エリシュカの悠然たるテンポはユニークで、肩透かしを食らったように感じる向きもあったろう。しかし、それが年寄りめいたものでなく、テクスチャを丹念に浮き立たせるための必然であったことは、見事な彫琢からきっと理解されただろう。ここで活きてくるのがN響の底力で、各声部が強靭さをもって安定的に響き、独特の音響モザイクが細部まで明晰に聴き取れた。結果、鄙びた地方色とモダンな表現性が両立していたのは稀有なことだろう。これは老練なオーケストラ・ビルダーにしてこそ達成可能な成果だ。以前、マエストロにお会いした時、シンフォニエッタについて次のように語っていたが、今回、その言葉の意味が本当に理解できたように思う。

これは本当に難しい曲だ。そう、まるでペトルーシュカや春の祭典のように。リズムとかテンポとかいう単に技術的な問題ではない。表現こそが難しいのだ。日本のオケでやるから難しいのではない。チェコのオケでも同じことだ。この曲は、本来、よほど上手いオケでないと、まともに演奏出来る曲ではない。そう、今まで演奏したタラス・ブーリバより女狐組曲よりはるかに難しい。ヤナーチェクの中では人気曲でしばしば演奏されるが、単に楽譜通りさらっていたのでは駄目だ。ヤナーチェクもどきでは駄目なのだ。

私は、ふと、近年ヤナーチェクへの共感を深めているブーレーズがこのシンフォニエッタを聴いたらどう評したろうと思った。というのも、ブーレーズのストラヴィンスキー演奏に近い美意識を、この演奏に感じたからだ。マエストロは卓越したスコアリーディング能力から現代音楽のスペシャリストとしても評価されているが、そういう面が発揮されたヤナーチェク演奏だったといえるだろう。

やはり印象的だったのは3楽章の美しさ。弦の深い響きと個性的な管のコントラストが見事な効果をあげていた。終楽章のコーダは、2日目に金管の音量をやや上げ、1日目より迫力を増していたが、最後の弦のテクスチャを掻き消さないよう一旦ふっと音量を絞るなど、最後まで音響バランスへの配慮が貫かれていた。

スメタナの交響詩「ワレンシュタインの陣営」もエリシュカらしい佳演だった。ほとんどの方はこの曲を初めて聴き、どこか取り留めなくチグハグな曲想に首を捻ったようだが、私はこの珍品をとても楽しんだ。弾力的なリズムと響きの効果に依った作品で、デットなNHKホールでなければもっと楽しめたろう。ここでも昨秋に札響のラプソディ特集で聴かせた、マエストロのオールドファッションな洒脱さが活きていて独特のユーモアのセンスが感じられた。

客入りは、初日で7割、2日目が9割というところか。これだけ地味な曲目のコンサートにしては興行的にも大成功といっていいだろう。

今回も当会会員や音楽仲間が多数集い、再会を喜び、感動を分かち合うことができた。会場でお会いした当会会員の樋口裕一さんアリスさんISATTさんもブログにレビューを公開している。良い演奏を聴いた後、趣味が通じる友人と語らうほど楽しいことはない。はるばる北海道より駆けつけた甲斐がある充実のコンサート始めだった。

テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

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