Sinfonietta - The Janáček of Jazz
なんと題して“シンフォニエッタ/ヤナーチェク・オブ・ジャズ”である。
1Q84ブームのおかげで遂にヤナーチェクがジャズ編曲されるまでになったかと驚いた。

●シンフォニエッタ/ヤナーチェク・オブ・ジャズ
エミル・ヴィクリツキー・トリオ
1. 悲しみの桃の木 The Forlorn Peach Tree ;古いモラヴィア民謡による
2. When I Walked ;モラヴィア(?)民謡による
3. A Bird Flew Over ;ヴィクリツキーのオリジナル
4. Gone With Water
;15のモラヴィア民謡集(Moravské lidové písně, 1922) 第11曲
水が流れる(Běži voda, běži S.116)より
5. 霧の中で 第4楽章
6. 熱望 Touha ;ヴィクリツキーのオリジナル
7. 去りゆく恋人 My Lover Is Leaving Me
;15のモラヴィア民謡集 第5曲
恋人はもうすぐ行ってしまう(Už sa mně můj milý prč ubírá)より
8. Fanoshu ;ヴィクリツキーのオリジナル
9. Sweet Basil ;ヴィクリツキーのオリジナル
10. She Was Walking Meadow ;民謡に基づくヴィクリツキーのオリジナル
11. Jenufa Act2. Scene 8
;歌劇『イェヌーファ』 第2幕第8場 ラツァの求婚に対するイェヌーファの台詞から
イェヌーファ:
お母さんは,そんな子どもみたいに話してるけど,
こんな私をもらえる?
よく考えて! 私には財産もなく,傷もので,
この世の何にも代えがたい,あの素晴らしい愛だってもう無いのに。
こんな私でもかまわないの?
12. シンフォニエッタ 第3楽章
ヴィーナス・レコード B002MH1A5I
※斜体:筆者注
しかも、”The Jazz on Janáček”(ジャズ版のヤナーチェク)ではなく、不遜にも”The Janáček of Jazz”(ジャズ界のヤナーチェク)である。村上春樹風に「やれやれ」と呟きつつも、これを聴かぬわけにはいくまいと、あまり期待せずに入手したCD。しかし、これは意外に拾いものだった。
ピアニストのエミル・ヴィクリツキー(Emil Viklický)は1948年オロモウツ(モラヴィア中部の街)生まれ、ベーシストのジョージ・ムラツ(George/Jiří Mraz)は1952年ピーセク(※南ボヘミアの街。ヤナーチェクの愛人カミラが住んでいた。)生まれで、共にチェコを代表するジャズメンだ。名手ムラツはドラムのルイス・ナッシュ(Lewis Nash)とともにトミー・フラナガンが2001年に亡くなるまで彼のトリオのリズム・パートナーを務めている。
全12曲中、ヤナーチェク作品によるものは民謡編曲を除き3曲、モラヴィア民謡によるものは4曲、ヴィクリツキーのオリジナルは5曲で、うち4曲が民謡調、1曲はヤナーチェクの発話旋律を用いている。つまり重心は、ヤナーチェクより民謡にあり、チェコ出身の腕利きのジャズメンが先駆者ヤナーチェクに敬意を表しつつ故郷の民謡をアレンジしたジャズというべきで、ブームがリリースを後押ししたにせよ便乗企画という訳ではなさそうだ。民謡のポピュラー編曲はややもすると本来の素朴さを失い厭らしくなるが、ヤナーチェクに傾倒し、英国の批評家から”The Janáček of Jazz”と賞賛されたヴィクリツキーは、さすがに民謡の味わいを大切にしながら、巧みにジャズと融合させている。
1,2,4,7曲目はモラヴィア民謡によるが、残念ながら原曲の録音はみつからなかった。4,7曲目の15のモラヴィア民謡集(Moravské lidové písně, 1922)は、各々20小節にも満たない短い曲集で楽譜はあるがCD録音はないと思う。なお、この2曲の歌詞は当会刊行の声楽曲対訳全集に収録されている。
ヤナーチェク作品の編曲は、民謡的なフレーズを抜き出して、それを基に自由にジャズアレンジしているが、それはオマージュというべきものだ。ヤナーチェク作品を悪趣味に改変するような編曲(例えばピーター・ブレイナー!)ならば気色悪く感じるが、これならばヤナーチェキアンでも心地よく面白く聴ける。やはり、聴きものは目玉であるシンフォニエッタで、3楽章のメランコリックな旋律を上手くアレンジしている。また、歌劇『イェヌーファ』 第2幕第8場におけるイェヌーファの儚くも美しいメロディが自由に変奏されているのも味わい深い。
私はジャズと深い付き合いをしていないので、この演奏の特徴を比較的に言えないが、全曲を通し、しっとりと落ち着いた雰囲気が、とても魅力的だ。ヴィクリツキーのピアノはニュアンスが豊かで、これはムラツのベースにも言える。ジャズの即興には自由なようでいて意外に型にはまっていて飽きてしまうようなものもあるが、ヴィクリツキーのモラヴィア民謡への共感がそんな単調さから救っている。ライナーノートによると、彼はレイフ・オヴェ・アンスネスのヤナーチェク演奏を高く評価し、共演を希望しているそうだ。
なお、このCDには英文と共に日本語の丁寧なライナーノートが付されている。ただ日本語解説者はジャズの専門家でヤナーチェクについては明るくないのか、シンフォニエッタを「マクロプロス・シング」(※『マクロプロスの秘事』)、「フロム・ザ・ハウス・オブ・デッド」(※『死者の家から』)と並ぶヤナーチェクの3大傑作(?)と記しているに笑った。「フロム・ザ・ハウス・オブ・デッド」というと何だかゾンビ映画のようだ。
1Q84ブームのおかげで遂にヤナーチェクがジャズ編曲されるまでになったかと驚いた。

●シンフォニエッタ/ヤナーチェク・オブ・ジャズ
エミル・ヴィクリツキー・トリオ
1. 悲しみの桃の木 The Forlorn Peach Tree ;古いモラヴィア民謡による
2. When I Walked ;モラヴィア(?)民謡による
3. A Bird Flew Over ;ヴィクリツキーのオリジナル
4. Gone With Water
;15のモラヴィア民謡集(Moravské lidové písně, 1922) 第11曲
水が流れる(Běži voda, běži S.116)より
5. 霧の中で 第4楽章
6. 熱望 Touha ;ヴィクリツキーのオリジナル
7. 去りゆく恋人 My Lover Is Leaving Me
;15のモラヴィア民謡集 第5曲
恋人はもうすぐ行ってしまう(Už sa mně můj milý prč ubírá)より
8. Fanoshu ;ヴィクリツキーのオリジナル
9. Sweet Basil ;ヴィクリツキーのオリジナル
10. She Was Walking Meadow ;民謡に基づくヴィクリツキーのオリジナル
11. Jenufa Act2. Scene 8
;歌劇『イェヌーファ』 第2幕第8場 ラツァの求婚に対するイェヌーファの台詞から
イェヌーファ:
お母さんは,そんな子どもみたいに話してるけど,
こんな私をもらえる?
よく考えて! 私には財産もなく,傷もので,
この世の何にも代えがたい,あの素晴らしい愛だってもう無いのに。
こんな私でもかまわないの?
12. シンフォニエッタ 第3楽章
ヴィーナス・レコード B002MH1A5I
※斜体:筆者注
しかも、”The Jazz on Janáček”(ジャズ版のヤナーチェク)ではなく、不遜にも”The Janáček of Jazz”(ジャズ界のヤナーチェク)である。村上春樹風に「やれやれ」と呟きつつも、これを聴かぬわけにはいくまいと、あまり期待せずに入手したCD。しかし、これは意外に拾いものだった。
ピアニストのエミル・ヴィクリツキー(Emil Viklický)は1948年オロモウツ(モラヴィア中部の街)生まれ、ベーシストのジョージ・ムラツ(George/Jiří Mraz)は1952年ピーセク(※南ボヘミアの街。ヤナーチェクの愛人カミラが住んでいた。)生まれで、共にチェコを代表するジャズメンだ。名手ムラツはドラムのルイス・ナッシュ(Lewis Nash)とともにトミー・フラナガンが2001年に亡くなるまで彼のトリオのリズム・パートナーを務めている。
全12曲中、ヤナーチェク作品によるものは民謡編曲を除き3曲、モラヴィア民謡によるものは4曲、ヴィクリツキーのオリジナルは5曲で、うち4曲が民謡調、1曲はヤナーチェクの発話旋律を用いている。つまり重心は、ヤナーチェクより民謡にあり、チェコ出身の腕利きのジャズメンが先駆者ヤナーチェクに敬意を表しつつ故郷の民謡をアレンジしたジャズというべきで、ブームがリリースを後押ししたにせよ便乗企画という訳ではなさそうだ。民謡のポピュラー編曲はややもすると本来の素朴さを失い厭らしくなるが、ヤナーチェクに傾倒し、英国の批評家から”The Janáček of Jazz”と賞賛されたヴィクリツキーは、さすがに民謡の味わいを大切にしながら、巧みにジャズと融合させている。
1,2,4,7曲目はモラヴィア民謡によるが、残念ながら原曲の録音はみつからなかった。4,7曲目の15のモラヴィア民謡集(Moravské lidové písně, 1922)は、各々20小節にも満たない短い曲集で楽譜はあるがCD録音はないと思う。なお、この2曲の歌詞は当会刊行の声楽曲対訳全集に収録されている。
ヤナーチェク作品の編曲は、民謡的なフレーズを抜き出して、それを基に自由にジャズアレンジしているが、それはオマージュというべきものだ。ヤナーチェク作品を悪趣味に改変するような編曲(例えばピーター・ブレイナー!)ならば気色悪く感じるが、これならばヤナーチェキアンでも心地よく面白く聴ける。やはり、聴きものは目玉であるシンフォニエッタで、3楽章のメランコリックな旋律を上手くアレンジしている。また、歌劇『イェヌーファ』 第2幕第8場におけるイェヌーファの儚くも美しいメロディが自由に変奏されているのも味わい深い。
私はジャズと深い付き合いをしていないので、この演奏の特徴を比較的に言えないが、全曲を通し、しっとりと落ち着いた雰囲気が、とても魅力的だ。ヴィクリツキーのピアノはニュアンスが豊かで、これはムラツのベースにも言える。ジャズの即興には自由なようでいて意外に型にはまっていて飽きてしまうようなものもあるが、ヴィクリツキーのモラヴィア民謡への共感がそんな単調さから救っている。ライナーノートによると、彼はレイフ・オヴェ・アンスネスのヤナーチェク演奏を高く評価し、共演を希望しているそうだ。
なお、このCDには英文と共に日本語の丁寧なライナーノートが付されている。ただ日本語解説者はジャズの専門家でヤナーチェクについては明るくないのか、シンフォニエッタを「マクロプロス・シング」(※『マクロプロスの秘事』)、「フロム・ザ・ハウス・オブ・デッド」(※『死者の家から』)と並ぶヤナーチェクの3大傑作(?)と記しているに笑った。「フロム・ザ・ハウス・オブ・デッド」というと何だかゾンビ映画のようだ。
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