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当会のオペラ対訳解説書について

ブロウチェク表紙


当会の9冊目の出版物であり、ヤナーチェク・オペラ・シリーズの第7弾となる『ブロウチェク氏の旅』対訳解説書オンライン注文を開始した。

これで主要なオペラ作品の対訳はなんとか出揃い、残るは初期作品『シャールカ』『物語の始まり』のみとなった。これには10年かかった。もし当会の発足が3年早くとも遅くとも、こう順調には進まなかったろう。ヤナーチェクの著作権が切れた1998年以降、我が国で彼のオペラ作品は毎年のように上演されてきた。しかし、厳しい経済情勢の中、このペースが今後保たれるかは不透明なため、この10年間の波に乗り、主要作品を制覇できたのは、本当に幸運だったと思う。

なにより、今年、傘寿を迎えられた関根日出男先生による訳を世に出した意義は大きい。

ヤナーチェクは、取り繕うこと、決まった型に従うことが大嫌いだった。記譜すら、印刷された五線に書くことを嫌って手書きにし、調性記号を記すより音符ごとに変化記号を付けることを好んだ程だ。そのせいか彼の文章は、音楽同様に個性的で飛躍が多く、決して読者に親切とはいえない。当初、私もヤナーチェクの文章には素人臭い粗雑さがあると感じていた。しかし、この編集作業を進めていくうち、ヤナーチェクは音楽同様、文筆でも天才なのだと気付かされた。でなければ『利口な女狐の物語』(チェスノフリーデクによる同名の新聞小説)や『死者の家から』(原作はドストエフスキーの「死の家の記録」)をあれほど見事にオペラ化できなかったろう。驚くべき題材の選択、天才的な編集の手腕、原作の持ち味や印象的な台詞は生かされ、独創的なシーンが補われている(例えば『女狐』3幕のラスト等)。

問題は、辻褄を合せるためにくどくど説明しようなどという気が全くないことだ。ヤナーチェクは、聴き手を作曲当時のチェコ人と想定し、言うまでもないことは省略し、継ぎ目や余白を放置することも厭わず、彼の信じる強烈な真実を露わにするよう独特な台本を作成した。

こうした文章の翻訳は、並大抵のことではできない。
関根先生の翻訳が素晴らしいのは、語学的な正確さだけではなく、チェコの文化・歴史に対する深く幅広い理解に基づき、原作から楽譜に至るまで徹底的に読み込んでいることだ。その上で、分かりにくい言葉や慣用句に丁寧な注釈を付け、意味を補完し、繰り返しの多い台詞を適宜整理して、実用的な対訳にしている。これだけの内容の訳は世界的にも稀だろう。

関根先生は、先日、50年間に渡るチェコ文化研究が評価され、チェコ政府より“チェコ芸術の友賞”を贈られた。この受賞には当然、当会の対訳解説書における実績も考慮されている。当会の対訳解説書はチェコの研究機関にも寄贈されているからだ。

編集者として長年サポートしてきた立場からいえば、関根先生がメール、ウェブ、ワープロから楽譜作成ソフトまで使いこなす実務家で、ネットを通じて気兼ねなく円滑にやり取り出来たことが何より大きかった。このささやかなプロジェクト自体、有志による片手間のボランティアなので、こうでなくてはとても作業は進まなかったろう。

自画自賛になってしまうが、ヤナーチェクのオペラの対訳解説書は、英国で『利口な女狐の物語』が一部刊行されているものの、これだけの内容で主要作品を網羅したものは世界唯一で、チェコ本国にすらない。本書がスタンダードとして普及し、ヤナーチェク作品の受容に役立つなら、これに勝る喜びはない。
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