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エリシュカ&札幌交響楽団の『我が祖国』

10月の札響名曲コンサートは首席客演指揮者ラドミル・エリシュカによるスメタナの『我が祖国』だった。本来、この名曲コンサートは、定期演奏会とは別に親しみやすい曲を廉価で聴かせるというコンセプトのシリーズなのだが、今注目のチェコ人指揮者による『我が祖国』ということで、特別な熱気につつまれた満員御礼の公演となった。

●札幌交響楽団名曲コンサート
2009年10月31日 15:00 (札幌コンサートホールKitara)
ラドミル・エリシュカ指揮 札幌交響楽団
スメタナ:連作交響詩『我が祖国』(全曲)

エリシュカが札響へ客演するのは2006年以来、これで4回目。日本で『我が祖国』を演奏するのは、NHK交響楽団(2009/2/7,8)九州交響楽団(2009/10/21)に続いて3回目である。TV放映もされたN響定期は好評を博し、九響との共演も大成功を納めたそうで、音楽評論家の東条碩夫氏が「これだけ見事にオーケストラを燃え立たせ沸騰させ、また聴き手の心を揺り動かすとは、全く、エリシュカは何という人なのだろう。」と興奮を隠さないレヴューを書いていた。そして迎えた今回の公演も果たして期待を裏切らない世界レベルの演奏だった。

解釈はN響の時とほとんど同様。今回も暗譜で振っていたが、この曲を隅々まで知り尽くしているのだろう。エリシュカはチェコ人だからといって(というか、だからこそ)、情緒的に煽ったり、民族性を強調するようなことはしない。むしろ、明晰なリズムと巧みなテンポ運びによりオケを引き締め、響きのテクスチャや楽想の展開を鮮やかに浮かび上がらせて、この曲本来の詩的なイメージを丁寧に描き、高揚や感傷にとどまらない繊細な味わいを引き出していた。つまりは、先の定演で聴かせた「タラス・ブーリバ」や「利口な女狐」組曲と同様の流儀だ。

『我が祖国』は、旋律豊かで、派手なオーケストレーションの大曲なので、ややもすると大味な感激を誘うことにもなりかねないが、エリシュカの演奏は全く違う。丁寧に細部を積み重ねることで、全体としては壮大なタブローが描かれていく(ムハの大作「スラヴ叙事詩」を思い浮かべた)。

2月に聴いたN響と比較すると、技術的にはN響が優れていて、洗練や安定感があったかもしれない。しかし、この日の札響には共感に支えられた勢いがあり、それが確かな表現力となって一層の感興を生んでいた。

例えばリズムには一貫してしなやかな弾性があり、それは特に弦に顕著だった。はずみ、しなり、ため、えぐるような響きには充実した芯が感じられ、瑞々しい音色も実に魅力的(こうした弾性は、ターリヒの録音にも特徴的だ)。「ボヘミアの森と草原にて」の対位法的な弦楽合奏の精妙さや、「モルダウ」や「ボヘミア~」における舞曲の上手さ、「シャールカ」の冒頭の絞り上げるような復讐の表情など、心憎いばかり。

一般的に金管はモッサリと滲みがちなものだが、この日のオケは弦、管、打ともきっちりとした輪郭線でエリシュカの描画に応えていた。「ターボル」「ブラニーク」の展開部では、激しい弦の刻みの上に管楽器、打楽器がはまり圧巻のアンサンブルを聴かせた。重厚な金管の活躍(今回はホルンが好調)が目立ち、見せ場の多い木管は要所で印象的なソロを聴かせ、「ブラニーク」の難しい重奏も見事だった。

細かな箇所を、いちいち挙げてもきりがないが、それでも書かずにはいられないのは「本場チェコの巨匠による熱演」という紋切型に陥らないためだ。「ターボル」「ブラニーク」では、民族的な高揚に傾かないことで、かえって軸となるフス派のコラールが印象的に響いていた。これは正統にしてユニークだ。

こういう演奏を聴くと、ライヴでオーケストラを聴く醍醐味を改めて実感する。先月の定期におけるゲルハルト・ボッセのハイドン、ベートーヴェンもそうだったが、指揮者とオケの意気が噛み合うと相乗的な効果が表れるものだ。指揮者の至芸が、札響各奏者の強い共感と集中力により高いレベルで達成されたことを大いに賞賛したい。終演後、満席のホールに拍手は鳴りやまず、音楽の余韻の深さを物語っていた。

それにしても近頃の札響は快調だ。公演毎に進歩している。今回の名曲コンサートがファン層の拡大に繋がることを切に望みたい。
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