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パリ、バスティーユ劇場の『利口な女狐』

先日の記事でも触れたが、昨年、パリ、バスティーユ劇場で上演された『利口な女狐の物語』がDVDとしてリリースされたので詳しく紹介しよう。

パリの女狐


ヤナーチェク:『利口な女狐の物語』 

エレナ・ツァラゴワ(S 女狐ビストロウシカ)
ユッカ・ラジライネン(Bs 森番)
ミシェル・ラグランジュ(S 森番の妻,フクロウ)
デイヴィッド・キューブラー(T 校長)
ローラント・ブラハト(Bs 牧師)
ポール・ゲイ(Bs-Br ハラシタ)
ハナ・エステル・ミヌティルロ(Ms 雄狐)
パリ・オペラ座アトリエ・リリク合唱団
オー=ド=セーヌ聖歌隊
パリ・オペラ座児童合唱団
パリ・オペラ座管弦楽団
デニス・ラッセル・デイヴィス(指揮)
演出:アンドレ・エンゲル

2008年10月23,29日、11月4日
パリ、バスティーユ劇場のライヴ


これはいかにもフランスらしいお洒落で知的な演出だ。随所にユニークなアイディアが光り、洗練されたセンスを感じさせる。

この作品では、人間が動物をどう演じるかが厄介な問題だ。
一つには動物をストレートに模して被り物を着ける方法がある。このタイプの代表は、コーミシェ・オーパーにおけるヴァルター・フェルゼンシュタインの歴史的な演出。最近だと、昨年の小澤サイトウキネンにおけるロラン・ペリーやベルリン・ドイツオペラにおけるカテリーナ・タールバッハによるものが挙げられる。これらは原作のイメージに忠実な良さがある反面、コスチュームをリアルにするほど不自然でグロテスクになり、歌手の表情が隠れてしまう難点がある。

もう一つは動物を擬人化する方法で、マッケラス指揮シャトレ座におけるニコラス・ハイトナー等、最近の演出のほとんどはこちらだ。もともとこのオペラは、蚊が校長に、穴熊が神父に相似するなど、動物界と人間界がクロスオーヴァーしているので、擬人化により両者を繋げるのは演出家のアイディア次第だが、この演出では、その点が大変巧みで動物を模すことには拘っていない。大体、観客は、動物という役柄を了解しているのだから、最小限の印さえあればいい。狐忠信(@義経千本桜)で十分なのだ。ここで女狐は茶色いビロードのぴったりしたスーツに身を包んだ、長い赤毛の女性で、耳や尾すらつけていないが、十分それらしく無理がない。

冒頭の動物たちには可愛らしい子供たちを効果的に使っている。レインコートを着てランドセルのように貝殻を背負ったカタツムリや、分厚い丸眼鏡をかけた学童ルックの羽虫たち、フロックコート姿の鹿等が登場。動物たちの格好を観ているだけで楽しい。飼犬ラパークは不潔なボヘミアン文士風、雄狐はもみあげの長いチョイワル青年風等、役柄の個性に合わせ擬人的な衣装が工夫されており、特に雄鶏、雌鶏の衣装は傑作だ。2幕の狐の婚礼では、こうした動物たちが一同に揃い、饗宴を盛り上げる。

舞台は全幕を通じてひまわり畑と線路を基調にしたシンプルなもの。ラテン的な明るい色彩が美しい。ひまわりの花は2幕で酔った校長先生が求婚するアイテムだが、この舞台の全体的なシンボルとなっている。森番は鉄道の管理人も兼ねているのか、森番小屋はコンクリート作りの駅舎になっている。このように、ちょっと違和感のあるモダンな道具立てを加えることで、従来の牧歌調のメルヘンとはまた違った詩情を醸し出していた。

ユニークなのが森番が回想するラストシーン。ここは女狐の死から数年後という設定で、通常舞台が変わるが、この演出では前の場のままの冬景色である。しかし、森番の回想のうちに、冒頭の動物たちが現れ、雪原からひまわりが一面に現れるという仕掛け。こうすることで最後の子蛙との対話を森番の夢として合理的に説明している。ここの演出は少々地味なので、好悪が分かれるかもしれないが非常に印象的だった。

歌手はみな素晴らしく、役柄にあった個性の風貌・声質で魅力的な歌唱を聴かせている。特に女狐のエレナ・ツァラゴワは、ロシア生まれの若いソプラノで、声、容姿共にコケットな色気があり、シンプルな衣装でも十分映える。森番のユッカ・ラジライネンも適役で、歌唱はもちろん、豊かな表情がとても良い。

指揮のデニス・ラッセル・デイヴィスは、ヤナーチェクの個性的なスコアをスムースに流すのではなく、独特の響きを掘り起こして面白い効果を上げている。ブルックナーの録音でも思ったが、この人の音楽には音響的センスの鋭さが感じられる。

この映像制作にはNHKが関わっており、先日、NHKBSでも日本語字幕付きで放映された。おそらく再放送があるだろうし、そのうち日本語字幕付きのDVDも発売されるかもしれない。とても魅力的な演奏・演出で、このオペラを愛する方には一見をお奨めしたい。
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