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眠れるチェコ人、ブロウチェク

ブロウチェク
12月に予定されている東京交響楽団による歌劇『ブロウチェク氏の旅』の日本初演に向けて、この作品が書かれた当時のチェコの状況を調べている。というのも、この作品は、当時人気のあった社会派詩人スヴァトプルク・チェフ(1846~1908)による諷刺小説を基にしているので、その喜劇性が非チェコ人には分かりにくいからだ。
※画像は、ヨゼフ・チャペックが舞台用にスケッチしたブロウチェク氏

そのせいか『ブロウチェク』はヤナーチェクの重要作品にもかかわらず上演も録音も極端に少ない。ヤナーチェクの大家、チャールズ・マッケラスは初期作品の『シャールカ』すら録音しているのに、このオペラについては録音がない(※作曲家生誕150周年の2004年にプラハ国民劇場で指揮している)。今シーズンの上演も、世界中で唯一この東響によるもののみ。地味で陰惨な『死者の家から』以下の頻度だ。音楽は詩情溢れ、劇的効果も高い魅力的なものなのだが。

19世紀、中欧ではチェコ人を含む諸民族の民族意識が高まり、民族文化復興運動が盛んになった。スメタナやドヴォジャーク、ヤナーチェクがこの民族運動に大きな影響を受け、積極的に参加したのは周知のとおりである。チェコ人は、1620年の「ビーラー・ホラ(白山)の戦い」における大敗以来、カトリック化とドイツ化が進んだ。そのため、この時代は、チェコ人が自らのアイデンティティを取り戻した解放の過程とロマンチックにとらえることもできる。しかし、色々調べると、事はそう単純ではない。

当時、チェコの民族主義者は「覚醒者」と呼ばれた。つまり民族主義の基となる民族意識は決して自明なものではなかったのだ。都市に住む知識層の多くはチェコ語が話せず、『我が祖国』を書いたスメタナですら、チェコ語を成人してからなんとか習得した。旧体制の中で既得権を得ているチェコ人も数多く存在した。

ビールとソーセージさえあれば満足な不労所得者、ブロウチェク氏は、こんな時代の諷刺の対象だった。彼は「覚醒」とは無縁な眠れるチェコ人だった。ヤナーチェクはブロウチェクについてこう書いている。「....われわれチェコ人の中にもたくさんのブロウチェクを見かけます。吐気を催すそんな奴に出会ったら、叩きのめし首を絞めたくなります。...」

こんな話を当会会員の友人としていたら、YouTube上の面白い映像を教えてもらった。チェコビールのトップブランド、ピルスナー・ウルケルのCMである。



Pilsner Urquell - Czech National Revival
http://www.youtube.com/watch?v=QnfE-nR-Ex4&feature=related

このCMには、初期の「覚醒者」である比較言語学者、ヨゼフ・ユングマン(1773~1848)が登場する。19世紀初頭、チェコ語は農民や地方労働者の日常語にすぎず、公の場での使用は無作法とすらとされていた。そのような中、ユングマンは「チェコ語・ドイツ語辞典」と「チェコ文学史」を著わし、文章語としてのチェコ語の重要性を強調し、その普及に努めた民族運動の先駆者である。

CMでは、1845年、ユングマンが街頭で人々にチェコ語の使用を呼び掛けているが、理解されない。彼は悩み、酒場でつぶやく。「人々にチェコ語の美しさを知らしめるにはどうすればよいのか。」 そして、ビールジョッキをみて突然ひらめく「我が国の糧なる水であるビールがかつてなく光り輝いている! この口当たりの良さ! 父祖より伝わる言葉もそうではないか」。多くの同志が賛同し、乾杯となる。
「かくしてチェコ語は再び広まったのである。」と字幕。

ビールを運んできたウェーターにユングマンは思わずドイツ語で答える。
”Danke(ありがとう)”
白ける人々。

チェコ人らしい自虐的なユーモアが混じったオチにニヤリとさせられる。
彼らも当然、この時期の歴史のロマンチシズムに混じる微妙な矛盾を十分に分かっているのだろう。

ああ、それにしても、チェコ・ビールの美味そうなこと。
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