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書評:『複数形のプラハ』(阿部賢一著)

プラハという都市については既に多くの本が書かれてきたが、ここに魅力的な一冊が加わった。

複数形のプラハ

複数形のプラハ
阿部 賢一著
人文書院 ¥ 2,940

都市、それは多様な要素が共存する空間であり、それは一種のコラージュともいえる。
カフェ、広場、ショーウインドーといった様々な場所、複数の言語、様々な出自をもつ芸術家の目を通して浮かびあがる都市プラハの複数性と多層性。オーストリア=ハンガリー帝国の「地方都市」からチェコスロヴァキアの「首都」となった都市空間「プラハ」の深層を解読する。


縁の芸術家を介してプラハが語られる場合、もっぱらカフカが取り上げられてきたが、本書の人選はもう一捻りある。作家のリルケ、画家のムハ(ミュシャ)、写真家のズデク、そして作曲家のヤナーチェクはともかく、キュビストのクビシュタ、「チェコのカフカ」ヴァイネル、シュルレアリスム写真のシュテルスキーの名前は、チェコ愛好家にすら初耳だろう。

ここで取り上げられた芸術家はいずれも自身に「複数形」を持ち、それによる捻れを抱えている。そして、それらがプラハの多層性を浮かび上がらせていく。どの章にも鮮やかな論考が散りばめられていて無類に面白い。

例えば、故郷プラハをチェコ人の側に立って表出したドイツ系住民のリルケ。
ドイツ嫌いの反動から親フランス傾向が強かったプラハで「アールヌーヴォーの華」として人気を博しながら、自身はスラヴ主義者だったムハ。
チェコの作曲家として認められることを望んだが、モラヴィアの作曲家として扱われたヤナーチェク。
ピカソのような前衛性よりもゴシック、バロックの精神の表現としてキュビスムを選択したクビシュタ。
光と影により、「空想」と「現実」、「絵画」と「写真」という二項対立から逃れ、両者を共存させた独自の世界を作ったスデク、等。

ヤナーチェクに関しては、あまりにもプラハ的なオペラ、『ブロウチェク氏の旅』について述べられている。

だがさらに進めて考えると、ヤナーチェクのオペラは、特定の時代に対する政治的なテーマに限定されない、様々なメッセージを投げかけている。それは「言葉」というものが空間的、時間的な広がりの中で醸成されるものであり、けっして「単一」なものとして規定されえないということである。第一部では、月の住民が話す言葉は東ボヘミア方言としての地域偏差を、第二部では十五世紀の古チェコ語の使用によって、歴史的な変化の相を浮かび上がらせている。そのような差異があるなかで、私たちは何と、誰と自分を同一視できるのかという普遍的な問いかけを、ヤナーチェクは20世紀初頭のプラハというローカルな場から投げかけているのである。
(〈モラヴィア〉の作曲家の眼差し p130より)


このオペラで、陳腐な詩を得意気に朗読する月世界の詩人(雲の化身)は、ヤナーチェクの仇敵ズデニェク・ネイェドリーを揶揄したものという指摘は興味深かった。ヤナーチェク版のベックメッサーか。

チェコ関連の本は、その歴史や文化に馴染みがない方には少々わかりにくいものもあるが、本書はガイドブック的な基礎知識を文脈を沿って要領よく盛り込んでいて親切だった。特にプラハ城や聖ヴィート教会、プラハ市民会館等、この街を観光する者なら必ず訪れる「名所」についての記述を読むと、本書を片手にこの街を訪れ、自ら「複数形」を探索したくなるだろう。
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