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ブーレーズ&シェローによる『死者の家から』のDVD

ブーレーズ&シェローによる『死者の家から』のDVDが発売されました。

ヤナーチェク:歌劇『死者の家から』全曲
 オラフ・ベーア
 エリック・シュトクローサ
 シュテファン・マルギータ
 ペーター・シュトラーカ
 ヴラディーミル・チメロ
 イジー・スルジェンコ
 ハインツ・ツェドニク
 ジョン・マーク・エインズリー
 アルノルト・シェーンベルク合唱団(合唱指揮:エルヴィン・オルトナー)
 マーラー・チェンバー・オーケストラ
 ピエール・ブーレーズ(指揮)
 演出:パトリス・シェロー
 収録:2007年7月、プロヴァンス、フランス(ライヴ)
 画面:カラー、16:9
 音声:PCMステレオ、DTS 5.1
 NTSC
 Region All
 (DG 00440 073 4426 輸入盤)
 ※5月に国内盤もリリース予定

このDVDに収録されているのは、昨年7月のエクサン=プロヴァンス音楽祭における上演。このプロダクションは、昨年5月のオランダ・フェスティヴァルを皮切りに、ウィーン芸術週間でも上演され絶賛を浴びたもので、今後、スカラ座やメトロポリタンなど主要な劇場を巡回する予定です。

これは当会会員の間では昨年一番のトピックでした。なにしろブーレーズ&シェローのコンビが、よりにもよって『死者の家から』を取り上げるのですから! 初めてこの話を聞いた時、この刺激的な組み合わせに驚きつつ、大いに興奮したものです。上演の模様は、昨年、インターネットラジオで中継され、私も初めてネットラジオのエアチェックを試みました。

ヤナーチェクの遺作となったオペラ『死者の家から』は、ドストエフスキーの『死の家の記録』に基づくもので、登場人物のほとんど全てが男性であること、主役が不在の集団劇であることなどから、一般的な客受けは到底望めないため上演の機会が極めて少ない演目です。しかし、これはヤナーチェクの作品の中でも、いや、あらゆるオペラ作品の中でも最も優れたものの一つといっていいでしょう。

何がそんなに素晴らしいか。ヤナーチェクの作風は、晩年、表現主義的な傾向を強め、本質的と思われる音以外は徹底的に削ぎ落とした独特のものに発展しています。このため、このオペラは、終始、調性的な旋律が豊かに鳴っているものの、『イェヌーファ』や『カーチャ』に残っていた19世紀的なロマンティシズムを脱した、現代的な辛口の響きに支配されています。それにしても、陰惨なテーマにもかかわらず、湿ったり、晦渋になったりしないのは全く凄い。「切れば血が出るような」という常套句がこれほど似合う音楽はないでしょう。

とにかく私はこのオペラが大好きで、いつも痺れるような想いで繰り返し聴いてきました。入手できる録音はごく僅かですが、マッケラス/VPO盤があれば何も不足はありません。これはまさにパーフェクトな名盤で、彼のディスコグラフィの中でも最良のものです。

そして、画期的な今回のブーレーズ。彼が若き前衛として気を吐いていた頃、保守的なブルジョアの溜り場である「オペラ座を爆破せよ」とアジっていたのは有名な話です。その後、オペラ作品も含めた様々な作品を彼ならではの鋭い感覚で解釈し、演奏家としても時代の先頭を走ってきたことはいまさら述べるまでもないことでしょう。そのブーレーズが老境を迎え盟友シェローと共に最後の演目に選んだのが、この『死者の家から』とはヤナーチェキアンとして感慨深いものがあります。

ブーレーズのヤナーチェクは、既にシカゴ響の自主制作盤から原典版(!)の『グラゴール・ミサ』が出ていました。ブーレーズのヤナーチェクへの関心は比較的近年になってからのことで、長らく「田舎のドヴォジャーク」のような印象をもっていたが、ある時『消えた男の日記』を知り、評価が一変したそうです。

さて、前置きが長くなりすぎました。この演奏については、今年度の会報に寄稿された貴重な文章を2本掲載し、今回のDVDのリリースにあわせ既に本サイトで公開しています。一つは、エクサン=プロヴァンスで実演を観られた森岡美穂先生のレヴュー。もう一つは、マーラー・チェンバー・オケの首席オーボエ奏者として今回の公演に参加された吉井瑞穂氏の報告です。

したがって、私の感想など蛇足にすぎないのですが、映像作品としてのレヴューならば書く余地があるかもしれません。

DVDを観た感想は、全てにわたり徹底した正攻法を貫いていることに尽きます。シェローの演出に奇を衒ったところは全くありません。むしろ作品本来が持つ普遍性、アクチュアリティを見事に浮かび上がらせており、細かく散りばめられた曲想には一々納得できる意味づけがなされています。それがブーレーズの鋭く明晰至極な演奏と共に表現を相乗的に高めているようです。

舞台装置は、19世紀のシベリアの収容所というよりは、より現代的で一般的な監獄のイメージです。絶望的に高いコンクリートの壁に囲まれた囚人たちは軍服を着た看守に強圧的に支配されています。囚人の心は荒み、些細なことでもいざこざになる一方、ささやかな娯楽が貴重な慰めになっています。こんな状況をシェローの演出は開幕後5分程で無理なく示します。

具体的には、序曲が止んだ後、囚人たちが「今日、新入りがあるそうな!」と叫ぶまでのオケのみの情景描写の導入、幕が開くと囚人たちは皆、寝そべっています。すると収容所長が入場、囚人たちはすぐに起立し、所長は辺りを睥睨します。やがて囚人たちは整列させられて、運ばれてきたバケツから食事が配られます。その後、囚人たちは古靴の蹴り合いに興じ(特徴的な木管のパッセージはここに効果的に重ねられます)、「今日、新入りがあるそうな!」という声に一同、顔を上げるのです。短い間にこれだけの芝居が詰まっているのです。

万事この調子でずっと続きます。唯一のインテリである政治犯のペトロヴィッチが入所時、手荒な扱いを受ける場面は特に強烈で、監獄の非人道性・政治性が露になります。このような暴力は今もどこかで繰り返されているだろう現代的なテーマで、容赦なく鋭いオケの響きとともに戦慄させられます。ペトロヴィッチは、持ち物を没収され、皆の前で衣服を剥ぎ取られて下着一帳にされ、無理やり髪を刈られます(台本では連行され舞台裏から呻き声が聞こえるとなっていますが、この上演では呻き声はなく、全ては舞台上で行われます。)

驚いたのが2幕への舞台転換で、凶暴なルカのアリアとともに一幕が終わった途端に天井から瓦礫が振ってきて、一挙に屋外の風景に変わります。瓦礫が散らばり、奥の壁が消えることにより、1幕の内壁がそのまま外壁になるのです。また、轟音とともに瓦礫が落下することで、1幕の世界が絶望のあまり崩壊したかのような効果を与えます。まったく、ブーレーズが本当にオペラ座を爆破したと思った観客もいたかもしれない迫力です。この大胆なアイディアには酷く驚かされました。散らばった屑の後処理も万全。これは観てのお楽しみです。

録音を聴いていて唯一気になっていたのが、少年囚アリェヤが女声から男声に変更されていることでした。ヤナーチェクは、ヤノ(イェヌーファ)、男狐、ぺピーク(利口な女狐)等、若い男に女声を当てることが多いので、これには少々違和感がありました。しかし、この舞台ではアリェヤは重要な役どころを与えられているので、映像を観て、この扱いに納得できました。

歌手は皆優れているが、特に狂った囚人スクラトフ役のジョン・マーク・エインズリーの演技と歌唱が印象に残りました。それから、シェーンベルク・コーラスの合唱の迫力にも圧倒されます。しかし、なんと言っても最大の功労賞はブーレーズに意図を汲んだマーラー・チェンバー・オーケストラに与えられるべきでしょう。この団体は、1997年にグスタフ・マーラー・ユーゲント・オーケストラから、アバドにより選抜された演奏家たちによってプロの室内管弦楽団として創設されたとのことですが、気鋭の腕利きが揃っているだけあって、非常に上手いです。

DVDは、アングルを細かく変え、アップなどを多用し、まるで映画のような凝った作りになっています。これを実演で観れば、舞台全体を見渡しながら、より迫力ある群集劇が味わえたのでしょうが、DVDで観る限りはこれで不足はありません。これは映像作品としてみても質の高いものでしょう。5月には日本語字幕付きの国内盤も出るようです。是非、ご覧下さい。

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