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香月泰男の鷹

今年は戦後を代表する画家、香月泰男(1911-1974)の生誕百年にあたる。女子高の美術教師だった香月は戦時中に召集されて満州へ赴き、終戦後2年間、シベリアに抑留され強制労働に服した。復員後はライフワークとして自らの体験に基づく油彩画連作「シベリア・シリーズ」を描き続けた。その数は57点にも及ぶ。

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シベリア鎮魂歌 香月泰男の世界(立花隆)

私は2004年に札幌で観た香月泰男展(「私の」シベリア、「私の」地球)に強烈な印象を受けて以来、彼の作品に魅せられている。

シベリア・シリーズで香月は、土壁や黒炭のようなザラリとした質感の画面により一切の感傷を排し、極限状態における人間とその想いを描いている。私は、このシリーズを観ながらヤナーチェクのオペラ『死者の家から』を思い出さずにはいられなかった。

ヤナーチェクが、ドストエフスキーのシベリア収容所体験に基づく小説「死の家の記録」を元に書き上げた遺作『死者の家から』は、登場人物のほとんど全てが男声であること、主役が不在の一種の群像劇であること、オケの響きが極端に薄いこと等、きわめて特異な作品だ。ヤナーチェク晩年の荒々しく切り詰められた表現主義は、香月の美意識とどこか通じるものを感じる。

シベリア・シリーズの中で特に興味深かったのは「鷹」という作品である。香月はこの作品について次のように述べている。

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鷹 1958年 64.8×99.7cm 山口県立美術館蔵

 「部隊に迷い込んで私に飼われた隼は、紐を喰いちぎって或る日逃げた。自力で自由をかちとったことを羨み、飛ぶ羽を持たぬ身に望郷の念は更にかきたてられた。飛翔力の強さを表現するために、鷹に換えて描いたものである。」

猛禽類が極寒の収容所で飼われるなど、あまりありそうもないように思われるが『死者の家から』でも同様のくだりがある。第1幕で傷つき監獄に迷い込んだ鷲が囚人に捕らえられ飼われることになるのだ。この後に続く囚人たちの望郷の歌は胸を打つ。鷲は囚人の自由への想いを託され、終幕では飛び去っていく。


ヤナーチェク:『死の家から』/シェロー演出、ブーレーズ指揮/2007年エクサン=プロヴァンス音楽祭


【第1幕より】
動画 3:30から

鷲を持った囚人(鷲の嘴を押さえながら)
さすが鷲だ! なつきやしねえ!

ちびの囚人
たとえ死んでもナ!

鷲を持った囚人
だが監獄ん中じゃいかん!
この鳥は自由で気が荒く,監獄なんかに馴れやせん!

ちびの囚人
まったく,おいら人間たァ違うナ!


年寄りの囚人
間違っちゃ困る! こいつは鳥で,おいらは人間様だぞ!

囚人たち
だってこいつは鳥で,おいらは人間様だ!

ちびの囚人
ニキタ,放してやれ!

鷲を持った囚人
鷲は森の帝王さ! 兄弟よ,森の帝王よ!


・・・・・・・・
動画5:50から

囚人たち
わが目もはや見ることなし
生まれし故郷の地をば
罪なきにまたも苦しみ!
(囚人たち出てゆく。アリェヤは年老いた囚人と守衛所の入口に坐っている)

囚人たち(遠くから)
心は痛む,望郷の念に。

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北へ西へ 1959年 72.9×116.7cm 山口県立美術館蔵

【第三幕ラストより】
囚人たち(鷲を籠に入れているのっぽの囚人に向かって)
ニキタ,放してやれ! 森の皇帝たる鷲!
(のっぽの囚人が籠を開ける)
自由! 自由!

ペトロヴィチ
死者たちの中からの復活!

囚人たち
自由! 自由!
(傷の治った鷲が飛び立ってゆく)
見ろよ,ふり返りもせん! 自由! 皇帝たる鷲!

ペトロヴィチ
新しい生活!(アリェヤは泣きながら,彼に身体をおしつける)
君は遠いダゲスタンに思いを馳せてるんだな!

アリェヤ
神のご加護がありますよう!(崩折れる)
(ペトロヴィチ,ついで所長も退場)

看守(囚人たちに)
さあ行くんだ!

囚人たち
ほほう,ほほう!(獄舎に戻ってゆく)

関根日出男訳、『死者の家から』対訳と解説 日本ヤナーチェク友の会編より

CDはマッケラス&VPOによるものが不朽の名盤、DVDではブーレーズ&マーラー・チェンバー・オーケストラ(パトリス・シェロー演出)によるものが演奏・演出共に圧倒的に素晴らしい。

※シェロー演出によるプロダクションはすっかり定番化した。今までブーレーズがアムステルダム、エクサンプロヴァンス、ウィーン、サロネンがミラノ、ニューヨークで指揮し、来月にはベルリンでラトルが振る。優れた演出が作品の評価・普及に貢献する良い例だ。12月にはウィーン国立歌劇場でフランツ・ウェルザー=メスト指揮による新演出上演も予定されている。

地味で陰惨な内容のため敬遠されてきた傑作が、シェロー演出以前に国際的な脚光を浴びたのは1992年のザルツブルク音楽祭(アバド指揮、クラウス・ミヒャエル・グリューバー演出)くらいだったと思う。その時の上演は総監督ジェラール・モルティエの強い意向で実現したが、客入りはあまり良くなかったと聞いた。
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