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『ルサルカ』のフロイト風解釈

ルサルカ
努力家の天才ドヴォジャークは、ワグネリアンだった若い時分より自らのキャリアの最終目標をオペラ作曲家に定めていた。しかし、ヤナーチェクのような演劇的センスが足りなかったのか、その作品のほとんどは台本が弱く成功しなかった。交響曲、室内楽、声楽曲等と、劇音楽以外では大成功をおさめ海外でも大家として認められるようになった晩年、ドヴォジャークはオペラの作曲に専念した。

アンデルセンの「人魚姫」のようなお伽話、『ルサルカ』は11作中10作目のオペラで最も成功し、今でも上演頻度が高い作品だ。特に第1幕で歌われる美しいアリア「月に寄せる歌」はチェコ・オペラのナンバーでは最もポピュラーなものだろう。

先日、カナダ出身の演出家ロバート・カーセンがパリオペラ座で手がけた『ルサルカ』の映像をDVDで鑑賞した。

ドヴォルザーク:歌劇『ルサルカ』全曲
 パリ・オペラ座 2002年
 
 ルサルカ:ルネ・フレミング
 魔法使い:ラリッサ・ディアドコヴァ
 王子:セルゲイ・ラリン
 水の精:フランツ・ハヴラータ
 謎の(外国の)公女:エヴァ・ウルバノヴァー
 森番:ミシェル・セネシャル
 皿洗い:カリーヌ・デエ

 パリ・オペラ座管弦楽団&合唱団
 ジェイムズ・コンロン(指揮)
 ロバート・カーセン演出
 収録:2002年6月28日、7月1,4日、パリ・オペラ座(バスティーユ)

 収録時間:154分
 画面:16:9、カラー
 音声:LPCM Stereo、Dolby Digital 5.0、DTS 5.0
 本編字幕:日本語・チェコ語

(第1幕)
森の湖に棲む水の精の娘ルサルカは、人間の王子に恋をする。ルサルカは魔法使いに懇願し、自分の声と引き換えに人間に変身する。王子はルサルカを見初め結婚する。
(第2幕)
王子は声を失った彼女に飽き、外国の公女に心を移す。怒った水の精がルサルカを連れ帰ると、王子は恐怖し、公女は逃げ去る。
(第3幕)
魔法使いは、ルサルカに元の姿に戻るには王子の血が必要だと告げナイフを渡すが、彼を愛するルサルカはそれを捨てる。改悛した王子はルサルカを見つけ、抱擁と口づけを求めるが、ルサルカは自分の口づけが王子に死をもたらすと拒む。王子は口づけし、ルサルカは王子を抱いて水底に沈む。

魅力的なお伽話ではあるが、肝心のヒロインが声を失うなどオペラとしては具合の悪い設定で、2幕で唐突に現れ去っていく恋敵の公女も薄っぺらであり、この作品でも台本の弱さは否めない。同時代の傑作、『イェヌーファ』や『サロメ』等と比べると、音楽の魅力はともかく演劇としての充実度は劣るだろう。

カーセンは、この弱点を巧みに転じて、妖怪との異類婚姻譚を次のようなフロイト風の物語に組み直す。中産階級の家庭に育った娘が上流階級へ嫁ぐが性生活に失敗する。しかし、ついには性的抑圧を克服しハッピーエンドという筋だ。

ルサルカの父親である水の精(ドヴォジャークの交響詩でも描かれるボヘミア版河童、ヴォドニーク)は、黒縁メガネをかけスーツを着たお堅いビジネスマン姿であり、厳格なモラルをもった新興実業家といった役作りである。一方、声を喪失したルサルカは性的に抑圧された冷感症の娘として描かれる。
ユニークなのは2幕で夫婦の寝室が鏡像的に2つ設置されていること。両室における登場人物の演技もシンメトリックであり、一方にルサルカ、もう一方に公女が配置される。公女はルサルカと衣装も髪型も同様の性的な分身として描かれ、公女が大胆に白いドレスを脱ぐと黒いスリップ姿になる。これは性的なイメージだ。
3幕でルサルカにナイフを渡す魔法使いは、やはり黒いスリップ姿の女性であり、ダブルベットからルサルカを諭す様はセックスカウンセラーのようである。終幕、黒いスリップを纏ったルサルカが王子に死の接吻をすると、二人はめでたく喜悦のうちにベットに倒れこみ幕となる。

こう書くと現代の演出によくあるこじつけ的な解釈のようでゾッとされるかもしれない。しかし、ルサルカの声の喪失や意味不明な公女の存在の意味がうまく説明されていて美しい舞台である。先日観た『カーチャ・カバノヴァー』でも思ったが、カーセンは登場人物の関係性を舞台上の空間構成として象徴的に見せるのに長けているようだ。

コンロン指揮は、ラテン的なすっきりした明るさのある雄弁なもので、普段馴染んでいるチェコの演奏家の演奏(ノイマン盤、ハルバラ盤)と比べると、”チェコ的な印象派”(オタカル・ショウレク)という特色が薄れ、ワーグナー風の色合いが濃く感じられた。森の精たちなどラインの乙女のようだ。

マッケラス盤でもタイトルロールを歌っている米国出身の歌姫、ルネ・フレミングは、強靭な声によるクリアな歌唱で魅力的だが「月に寄せる歌」だけはどうも違和感があった。魔法使い役のラリッサ・ディアドコヴァの存在感、王子役のセルゲイ・ラリンの情熱、水の精役のフランツ・ハヴラータの生真面目さと父親としての愛情、公女役のエヴァ・ウルバノヴァーの強靭さなど脇も充実している

ドヴォジャークのオペラを日本語字幕付きで身近に楽しめる廉価盤DVDなのでお勧めしたい。
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テーマ : クラシック
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