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ラドミル・エリシュカ/札幌交響楽団、首席客演指揮者就任公演

●札幌交響楽団~第508回定期演奏会
(1)日時:
 A日程・夜公演 2008年4月11日(金) 開演時間 19:00
 B日程・昼公演 2008年4月12日(土) 開演時間 15:00
(2)場所:札幌コンサートホールKitara
(3)プログラム:
 ヤナーチェク/タラス・ブーリバ
 モーツァルト/ピアノ協奏曲第24番 ハ短調K.491
 ドヴォジャーク/交響曲第6番 ニ長調op.60

 ラドミル・エリシュカ(首席客演指揮者)指揮 札幌交響楽団
 ピアノ:伊藤 恵

一昨年の衝撃の札幌デビューから様々に事態が転回し、ついに待望の首席客演指揮者就任公演。もちろん私は両日とも聴きました。

全体としては、なによりマエストロ、エリシュカと札響の相思相愛ぶりが強く印象に残りました。マエストロは明快な棒により相当細かな指示を出し、オケはそれに対し高い集中力で機敏に応えていて、マエストロの音楽性とともに札響の底力に改めて感嘆した次第です。

1曲目のタラス・ブーリバは、今回、初めて実演に接し、つくづく難しい曲だと感じました。何がそんなに手強いのか。ヤナーチェク独特のフレーズ毎に鋭く切り込むような前のめりのアクセント。情景・物語を描写する交響詩の性格上、楽想の転換が細かく、変拍子だらけの独特の書法はまるで現代曲のようだが隅々まで全く旋律的。各々のパートは曲全体の構成要素という以上に、生々しい質感と個性の主張が要求されている、等々。私のような素人がちょっと考えても多くの難所が思い当たります。

したがって、この曲はヤナーチェク節に慣れない奏者には、かなりな緊張を強いるものでしょう。ヤナーチェクの管弦楽は、彼の弦楽四重奏曲と同様、各楽器がアグレッシブに食いついて歌わなければ、もっさりと角がとれて鈍く響き、どうにも様にならない。特にこの曲で活躍する管楽器は、元来、音の立ち上がりが遅いので高度な機敏さを要求されます。しかし、うまくいくと比類の無い効果を呼ぶようで、これまでも録音で聴き慣れた曲の実演に接し、響きの精妙さに驚いたことが幾度かあります。

初日の演奏は、てこずりながら何とか仕上げたという印象。大きな破綻はないものの、まだぎこちなさが目立ち、響きに硬さを感じました。しかし、曲が進むにつれて徐々に調子が上がっていき、3曲目は良い出来で、翌日へ期待を繋ぎました。

そして2日目は、ついに札響がヤナーチェク節を会得したことを感じさせる感動的な演奏でした。特に1曲目は初日より格段にこなれていて、リズムが決まるようになると、オケの響きも俄然良くなり、ドラマチックな高揚感が次第に高まっていきました。とは言っても、マエストロはオケを煽り立てることは決してなく、各パートをバランスよく整えながら着実に音楽を紡いでいきます。その中で弦は特に秀逸で音色への配慮も行き届き、2曲目の嘆き節や3曲目のコーダなどスラブ的な情感に溢れていました。また、コンマス伊藤亮太郎さんの要所要所での活躍には痺れる思いがしました。ただ、それに比べると木管がややニュアンスに欠けていたのが惜しまれます。ともかく、ラストにはオケの響きがソリッドに纏まり、堂々と起立したように感じました。

今回2日に渡ってタラス・ブーリバを聴き、札響の成長を確認して今更ながら気付くのは、マエストロが首席客演就任公演の最初のプログラムで、この難曲を取り上げたこと自体、大変な冒険であり危険な賭けだったということです。その決断はマエストロのヤナーチェクに対する深い思い入れと使命感に基づくものであり、札響への信頼の証でもあるのでしょう。これに対しオケは十分に報いたと思います。

マエストロは、ヤナーチェクが創設したブルノ音楽大学に学び、彼の高弟ブジェチスラフ・バカラに1951年から1956年まで師事しました。ヤナーチェクの手法に通暁していたバカラは、記譜に荒っぽいところのあった作曲家の全面的な信頼を受けて助手として献身的にサポートし、「消えた男の日記」「シャールカ」「死者の家から」など幾つかの作品の校訂をしました。

今回、札響が演奏したのは、そのバカラから直伝された版です。マエストロは「ヤナーチェクの作品の多くは既にそれほど楽譜による差異はないが、ことタラス・ブーリバに関しては現行の楽譜では納得できない点が幾つか残されている。今回、バカラによる指示を反映させることで作品本来の姿を伝えたい。」と熱っぽく語っていました。

実際、練習のほとんどは、この曲に費やされ非常に細かいところまで繰り返しさらったそうです。また、マエストロはホテルでも、連日、夜遅くまでバカラの指示をパート譜へ書き込まれていたそうで、この達成はそのような入念な準備の上に成り立っているのです。

2曲目のモーツァルトのピアノ協奏曲第24番は両日とも出来に差はなく、きわめて洗練された演奏でした。パセティックなハ短調だが甘美なロマンチシズムに流れることはなく、刺激的なピリオド調になるわけでもない。

ピアニストの伊藤恵さんは、スタインウェイからフォルテピアノのような丸く平べったい音色を引き出す一方、カデンツァでは音色にさらりと艶を持たせながら、終始、優雅で思慮深い解釈を聴かせました。それに対するオケのサポートがまた絶妙。モーツァルトとしては編成がやや大きいようでしたが、タラス・ブーリバの雄渾とは一転し、ピアノの機微を引き立てる端正な響き。歌い口はロマンチックなレガートに流れず慎ましく収められ、細かなアーティキュレーションの妙味はピリオド風の強調がなくとも、ちゃんと聞えてきます。弦と管のバランスが良く、特にフルートの美しさが印象に残りました。派手な個性がないようで大変ユニークな両者の演奏スタイルは、晩年のモーツァルトに独特な清澄感を味わうにはもってこいのもので、この組み合わせで23番や27番の協奏曲も聴いてみたくなりました。

休憩を挟んで、3曲目のドヴォジャークの交響曲第6番も本領を発揮した見事な演奏でした。案外知られていないこの佳曲をこれだけの完成度で聴かせる指揮者は、現在、いや過去にもそう多くはないでしょう。優れた演奏として私が常々愛聴しているアンチェル盤やシェイナ盤と比べても遜色ないどころか上を行くところが多々ありました。

音楽は衒いなく自然に流れ、響きのバランスは良く、曲の構成展開が誰にでも腑に落ちる姿で見事に示されています。マエストロはブラームスを得意にしており、この曲は「ブラームスの交響曲第2.5番」などと渾名されるそうですが、確かにボヘミアの豊かな旋律が新古典主義的な枠組みの中で精緻に「交響」するのがよくわかりました。ドヴォジャークというと旋律の豊かさばかりに気を取られがちで、演奏によってはそれに食傷し退屈に感じることすらありますが、この作曲家の本来の魅力はこうした「自然さ」と「緻密さ」の両立にあるのではないでしょうか。私は「アメリカ」などを聴くと、ドヴォジャークの天才はひょっとしたらモーツァルト以上ではと思いますが、今回のような優れた演奏を聴くとやはりそう信じたくなります。

この曲の演奏は両日とも優れたものでしたが、あえて言えば、初日は1、2楽章が、2日目は3、4楽章が優れていました。特に2日目の生気に溢れながらも粗野な誇張のないフリアント。そして4楽章では楽想の華やかな畳み掛けの中で札響の弦がまるでチェコの弦のように絹糸を引いたような艶やかなものに変貌していったのには驚かされました。一体何が起こったのかと思い、演奏会後、楽員の方にうかがったところ、マエストロの棒に従っているうち自然にそうなったとのこと。こういうマジックが起こるから演奏会通いは止められません。

以上、全般的に言えることですが、マエストロの解釈に恣意的なもの押し付けるようなところはなく、通人にしか分からないような晦渋さもありません。音楽の流れを要所で的確に調整することで、響きは充実し、自然な展開が導かれ、万事腑に落ちるといった具合です。これはある意味、最も論じ難い類の至芸でしょう。結局、贅言を尽くすより、まあ兎に角聴いてみて下さいとしか言えません。

私が次にマエストロに期待するのは、例えば「新世界」「運命」「未完成」のように手垢のついた名曲を、何気なく非凡な解釈で聴かせくれることです。それからやはり録音を残して欲しい。特に無形文化財級のドヴォジャークについては是非、交響曲・管弦楽曲の録音チクルスを気心しれた札響により実現してもらいたいものです。

それにしても我が街、札幌とは素晴らしい縁でした。
終演後、マエストロとお会いした際、「モーツァルトは自分を温かく受け入れてくれたプラハの街と人が大好きだった。丁度、札幌が僕を迎えてくれた様にね。」とにっこり笑いながら語って下さったのが、とても印象的に残っています。
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