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片足走者の長距離レース~クンデラの「めぐり逢い」を読む(1)

めぐり合い
代表作「存在の耐えられない軽さ」で知られるチェコ出身の作家ミラン・クンデラの最新エッセイ集が出た(ただし原文ではなく英訳)。クンデラももう81歳になる。

Milan Kundera:Encounter(ミラン・クンデラ著 めぐり逢い)
Faber and Faber; Trade Paperback

本の扉には、「内省と回想、長年の(実存的、芸術的)テーマや昔からの愛着...それらとの出会いについて.....」とあり、フランシス・ベーコンやドストエフスキー、アナトール・フランス、ガルシア・マルケス、フィリップ・ロス、フェデリコ・フェリーニ、ベートーヴェン、シェーンベルク等に加え、ヤナーチェクについても語られている。

クンデラの父、ルードヴィクはヤナーチェクに師事した音楽学者だった(ルードヴィクのポートレートは以前紹介した)。そんな縁もありヤナーチェクの死の翌年にブルノで生まれたクンデラは幼少より彼の音楽に馴染んでおり、本書でも「最初の愛」と題された章においてヤナーチェクの音楽こそが自分の芸術上の原点であるとして、2編のエッセイ(「片足走者の長距離レース」、「最もノスタルジックなオペラ」)を寄せている。

クンデラは、機会あるごとにヤナーチェクについて触れており、邦訳されたものにはエッセイ集「裏切られた遺言」に納められた「一家の嫌われ者」があった。本書の「片足走者の長距離レース」は、「一家の嫌われ者」と通じる内容で、いかにヤナーチェクが誤解され、現代音楽としての真価が認められていないかについて語っている。

クンデラは、亡命先のフランスで、ヤナーチェクについてラジオで語る機会を何度か得て、その後は音楽誌にCD評を寄せるようになった。しかし、満足できる演奏が少なく、その原因は技術的な問題というより作品の独自性への無理解にあるという。そして、ヤナーチェクは、その作風が長く誤解され、彼を理解する擁護者も少なかったと述べ、そうしたハンディを背負った苦しい戦いを「片足走者の長距離レース」に喩える。

クンデラはヤナーチェクへの無理解はいまだにあると嘆き、CDのライナーノートに「スメタナの精神を受け継ぐ者※」という記述を見つけては腹を立て、有名なラルース大辞典(Larousse)の項に「彼は民謡の体系的な収集を行い、その成果は彼の作品と政治意識全般に影響を与えた。」「(彼の作品)はきわめて愛国的で民俗色が濃い」「(彼のオペラ)は社会主義的なイデオロギーに裏打ちされている」という記述を拾っては、「ありえない戯言」、「現代音楽の国際的文脈外におく言い草」、「まるでナンセンス」と痛罵している。また、この辞典に初期作品『シャールカ』は記されているのに、晩年の傑作『死者の家から』の記述がないことに強い不満を示している。

クンデラが評価する数少ない例外は、録音ではアラン・プラネスによるピアノ曲集(HM)アルバン・ベルクSQの弦楽四重奏曲(EMI)、その他、演奏家ではマッケラスやブーレーズである。

私からみるとクンデラのヤナーチェク観は少々脱チェコ音楽に傾きすぎているように思える。どこまで意図的なのかわからないが、ヤナーチェクとドヴォジャークの強い繋がりや、民謡への傾倒、チェコの演奏家については触れていない。また、クンデラほどの大作家が、なにもライナーノートや辞典の記述にそんなに目くじらを立てなくても良いのにとも思う。

チェコを代表する作家といえば多くの方がクンデラの名を挙げるだろうが、彼としては祖国に対し少々複雑な思いがあるのだろう。実際、チェコ国内ではクンデラに対し外国に逃げて成功した作家という妬みの混じった評価もあると聞く。クンデラがチェコ音楽を越えた現代音楽の文脈にヤナーチェクの独自性を位置づけることに拘るのは、多分に個人的な思いも含まれているのかもしれない。

※スメタナ、ドヴォジャーク、ヤナーチェクはチェコの国民楽派として一括りにされるが、スメタナは当時国際的な主流だったワグネリズムから国民音楽を創造しようとし、ドヴォジャークやヤナーチェクは独自路線を歩んだ。そのため、ドヴォジャークやヤナーチェクはスメタナ派から激しく攻撃されたという背景がある。
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