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エリシュカ&札響による正調シンフォニエッタ

マエストロ、エリシュカの誕生日は4月6日、今春で79歳になる。ここ数年、マエストロは丁度この時期に、まだ肌寒い札幌に降り立ち、札響の面々から祝福されるのが恒例となっている。早いもので札響への客演も今回で5回目。良い録音に恵まれたこともあり首席客演指揮者エリシュカと札響の強い結びつきは広く知られ、いまや全国ブランドとなった。地元ファンとして本当に嬉しいことだ。今年も昨年同様、道外勢も含めた数名の当会会員がKitaraに駆けつけ、私は2日間にわたって聴いた。

●札幌交響楽団 第528回 定期演奏会
日時:2010年4月 16日(金)19:00、17日(土)15:00
会場:札幌コンサートホールKitara

プログラム:
 ドヴォジャーク/序曲「謝肉祭」op.92
 ヤナーチェク/シンフォニエッタ
 ドヴォジャーク/交響曲第5番ヘ長調op.76

指揮:ラドミル・エリシュカ(首席客演指揮者)
札幌交響楽団

ドヴォジャークの序曲「謝肉祭」は、タンバリンやトライアングルが活躍する華やかな曲である。ともすれば表面的な空騒ぎに終わるおそれもある小品だが、エリシュカは名人芸を発揮し爽快に仕上げていた。響きを測るような僅かなタメを含んだリズムの下、オケは存分に鳴っていて、音色への配慮も十分なので、時折、意外な洒脱ささえ感じられる。途中に現れるホ短調の弦の主題は実に表情豊かで味わい深かった。両日とも大変安定した出来で、指揮者が曲の隅々まで知り尽くしていることを伺わせた。

シンフォニエッタは大変な難曲である。マエストロは、本番1週間前に札幌でお会いした際、時に厳しい表情で語気を荒らげ、身振りを交えながら、次のように述べていた。

これは本当に難しい曲なのだ。そう、まるでペトルーシカや春の祭典のように。リズムとかテンポとかいう単に技術的な問題じゃない。表現こそが難しいのだ。日本のオケでやるから難しいのではない。チェコのオケだって同じだ。この曲は、本来、よほど上手いオケでないと、まともに演奏出来る曲ではないんだ。そう、今まで演奏したタラス・ブーリバより女狐組曲よりずっと難しい。ヤナーチェクの中では人気曲でしばしば演奏されるが、単に楽譜通りさらっていたのでは駄目だ。ヤナーチェクもどきじゃ駄目なんだ!

私はシンフォニエッタ・マニアである。この曲のCDは30枚近く持っているだろう。しかし、今回、エリシュカの演奏を聴いて、なお新鮮な発見があった。

エリシュカは、この曲に大編成の管弦楽の重厚な迫力よりも室内楽的な透徹した響きを求める。壮麗な大管弦楽ではなく、拡大された精緻な室内楽を目指すのだ。おそらく、これに肩透かしをくらった向きもあるだろう。しかし、これは作曲者がこの作品のタイトルを"Sinfonia(交響曲)"ではなく、あえて"Sinfonietta(小交響曲)"とした意図に適うものだ。だが、この様なコンセプトをはっきり打ち出した演奏は、実はそう多くはない。思い当たるのはジョン・ティレル校訂による原典版を使用したマッケラス&VPO('80)の録音くらいか。

このような演奏で聴くと、この曲は、CDでしばしばカップリングされる劇的な「タラス・ブーリバ」より、むしろコンチェルティーノやカプリッチョ、弦楽四重奏曲に性格が近いことがわかる。特にコンチェルティーノはタイトルからいってもシンフォニエッタとの関連があるのかもしれない。

マエストロは、今回の演奏に際し、慣用版のスコアを詳細に見直し、自ら納得いく作品本来の形にしたという。というのも、ヤナーチェクの記譜は非常に癖の強いものだったため、慣用版の楽譜は明白な誤りや、演奏上無理のある箇所、分かりにくい箇所を含んでいるためだ。

それは例えば、第4楽章で鳴る鐘の選択において明らかである(私の手持ちのポケットスコアでは単にCampanelliとある)。ほとんどの指揮者は、この部分でチューブラーベルを使うが、エリシュカはグロッケンシュピールを用いる。そうすることで、量感はあるが鈍いチューブラーベルに比べ、より室内楽的で明澄な響きを得るのだ。これは選択の問題ではなく、チューブラーベルの使用は明確な誤りだとマエストロは断言する。私が手持ちのCDで確認した限り、ここでグロッケンシュピールを使っているのは、彼の師であるバカラと、ヤナーチェク演奏の権威であるマッケラスのみである。(マッケラスは、80年以降の原典版による演奏は無論のこと、59年のプロアルテ管との演奏でさえもグロッケンシュピールを使用している。)あとは、ノイマン、クーベリック、アンチェルなどの名演でさえチューブラー派なのが興味深い(※)。ところで、グロッケンシュピールやピッコロが活躍するヤナーチェクの曲というと、木管六重奏曲「青春」の第3楽章に転用された「青服の少年たちの行進」が思い出される。そういえば「青服の少年」の旋律と、シンフォニエッタの4楽章の主題は類似しているように思える。ともにブルノの思い出にまつわる曲なだけに、なにか関係があるのかもしれない(これについては、これから調べてみよう)。

話がマニアックになりすぎた。
大編成の管弦楽で室内楽的な響きを追及するのは難儀であり、少しも縦線が揃わない複雑な絡み合いは、演奏者に極度の緊張を求めるものだろう。しかし、オケは十分に指揮者の困難な要求に応えた。一日目は若干の傷はあったものの、二日目の演奏には安定感があり、その完成度は格別なものだった。

まず、弦による反復的な楽句のモザイク模様が浮き立って、全体に澄み切った雰囲気を与えていた。その上で、複雑に鳴る管楽器は、良い意味、癖のある音色と表情がキャラ立ちしていて、音の感触が楽しめた。フルートのハスキーな高音とえぐるような低音、小粋なピッコロ、オーボエの頓狂な響き等々、各楽器が溶け合わず織り成す点描画のような響きは、まさにヤナーチェク以外ではありえない音楽だ。3楽章の弦の主題における焦がれるような憂愁の歌い口は、言葉の抑揚を感じさせるようなヤナーチェク節で、彼の弦楽四重奏曲を思わせ新鮮だった。バンダは、寄せ集めの”トラ”だとのことだが、良い意味でザラりとした別働隊の味わいが良く出ていた。ただ最後のクライマックスの弦だけはもう少し量感が欲しかったが。

ドヴォジャークの交響曲第5番は、彼が助成金を得て作曲家として軌道に乗り始めた頃に作曲された傑作である。エリシュカ&札響がこれまで演奏した、6番、7番に比べると、構造の緊密性は薄く、むしろ伸びやかな旋律の展開によっている作品だ。

この曲には、ノイマン&チェコフィルによる名盤がある。ノイマンはチェコの巨匠の代表格のように思われていて、実際そうなのだが、良くも悪くもボヘミア的に折り目正しく、ドヴォジャークでは、ときにリズムが硬く不満に思うところもある。しかし、この曲では、ノイマンのきっちりした枠にチェコフィルの風合いが滲み絶妙な感触を醸し出している。私はクレツキ&チェコフィルによるベートーヴェンの交響曲を愛聴しているが、あれに近い味わいといえるだろう。

この名演に比べ、今回のエリシュカはどうかというと、絶妙なテンポ設定と響きの剛柔の使い分けで楽想の展開を鮮やかに聴かせ、溌剌とした呼吸の巧さが魅力的だった。オケにはこれまで以上にしなやかな表現力が感じられ、第2・4楽章における艶やか響きによる流麗な味わいも印象的だった。それにしても、こうして聴くとなんと愛すべき音楽だろう!演奏によっては冗漫に思えることさえある曲なのに。

これまでマエストロはドヴォジャークでも馴染みの薄い中期の交響曲の真価を教えてくれた。マエストロの指揮で聴くとドヴォジャークの魅力が、けっして旋律ばかりではないことを痛感する。楽想の連係が、リズム・音色の変化を駆使して巧みに構成され、実に多彩で充実している。そして、いよいよこれからは待望の8、9番だ。耳慣れた”通俗名曲”なだけに期待は高まる。続いてスラヴ舞曲やチェロ協奏曲(札響首席チェリスト、石川祐支のソロを希望!)など有名曲も着実に取り上げられるだろう。ますます楽しみだ。

今回の札響は全般的に木管の活躍が印象に残った。弦も金管も充実し、オケの響きが以前より前に出てきている。二日目の公演はマエストロにとっても会心の出来だったようで、これまで以上にご満悦の様子だった。

チェコ音楽オタクとして、このようにチェコの伝統を受け継ぐ演奏は、今やチェコ本国ですら稀であると断言できる。一地方オケの好調に留まらず、今後はバルビローリハレ管のように国際的評価を獲得することも期待したい。

※その後、確認したところ、以下もグロッケンシュピール派だ。
 ・クーベリック CPO 1946 mono
 ・クーベリック VPO 1955 mono
*クーベリックは、バイエルン放送響との録音(DG)ではチューブラー派なのだが、若い頃はグロッケン派だったようだ。もしかしたら以前のチェコではグロッケン派が主流だったのかもしれない。ターリヒの録音がないのが残念だ。
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