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2016年のディスク10+1選

新年おめでとうございます。
今年も本サイトをよろしくお願いいたします。

さて、以下は毎年恒例で綴っている昨年に聴いたディスク(CD or DVD)の私的十選です。今年はCDのみ。順不同、昨年発売のものに限らず旧録音も含んでいます。

近頃、無駄にモノを溜め込むことは、それだけで疲れるものだとつくづく感じます。生来の蒐集癖から気になるモノを無暗に集めてしまうのですが、蒐集欲と消化力のバランスを崩している感があります。

以前は吟味して1枚1枚選んでいたCDも今は箱買いが当たり前。手軽に一気に揃うのは有難いがコレクションは膨らむばかり。10枚組の箱が1枚分の価格で入手できても、聴くための時間がそれだけ工面できるはずもない。

そして、とにかく箱モノは置く場所に困る。新たに購入したCDは居間のバッファスペースに収容後、書斎のCD棚に保管しますが、そこに一度しまうと大棚から探すのが億劫になってしまう。そこでよく聴くものもバッファスペースに仮置きするが、その容量を超えるとあちこちにCDが散乱し家人の文句も多くなる。それなりに分類管理したりするのだが、こうも雑多だとどうもうまくいかない。

そんな訳でなるべく無用なCDは早めに処分し、一度しか聴かないような半端なものを避け、絞った購入を心掛けているのですが、何が半端かというのは聴いてみるまで意外に分からなかったりもする。世評が高い名盤がすぐにお蔵入りになることもあれば、ワゴンセールで買ったマイナーな録音をいつまでも聴いていたりもする。趣味嗜好も若い頃とは随分変わってきていますね。

そんな中であれこれ漁った末に長く聴けそうなCDがこれらの十選です。


1.イヴォンヌ・ルフェビュール大全集(24CD)

昨年はピアノ関連の箱モノに収穫が多かったが、なによりこれ。フレンチピアニズムの粋を堪能しました。ドビュッシーやラベルなどフランスモノは無論、ベートーヴェンも素晴らしい。


2.ユージン・イストミン/協奏曲、ソロ録音全集(12CD)
3.バイロン・ジャニス/コンプリート・RCAアルバム・コレクション(11CD+DVD)


知る人ぞ知る米国の名ピアニストの録音がまとめて入手できたのは有難い。ヒストリカル好きとしてはフランス、ドイツ、ロシア等の欧州の演奏家に惹かれがちだけれど、米国往年の演奏家も素敵だ。華やかで洒落ていて、ラフマニノフは特に愛されたレパートリーのよう。思慮深いイストミン、強靭な意思が漲るジャニス、個性は全く違うが、それぞれに時代の香気が漂う。


4.アントニオ・ペドロッティ・イン・プラハ~チェコ・フィルハーモニー管弦楽団との録音集(3CD)

以前、実家に「展覧会の絵」のLPがあった。誰の演奏か分からなかったが、このペドロッティ&チェコフィルの録音でした。指揮者のポートレートを見て思い出し、妙に懐かしかった。往年のチェコフィルの音色によるラテン作品が意外に嵌まる。


5.ヤナーチェク:グラゴル・ミサ、アヴェ・マリア、他 ガードナー&ベルゲン・フィル、ベルゲン・フィル合唱団、ベルゲン大聖堂合唱団、他

ノルウェイー勢の透徹したアンサンブルによるグラゴルミサ。見事な演奏です。


6.エリーザベト・シュヴァルツコップ SP期のEMI録音全集(5CD)

オリジナルマスターテープによるせいかスクラッチノイズがなく、驚くほど良好な音質です。シュヴァルツコップファン感涙。


7.『リコーダーの芸術』 デイヴィッド・マンロウ、ロンドン古楽コンソート(2CD)

マンロウの名盤がオリジナーレから復活。特にこのCDは書き下ろしのライナーノートの充実ぶりが凄い。


8.バッハ:ミサ曲ロ短調(新校訂版) ラーデマン&フライブルグ・バロック管、シュトゥットガルト・ゲヒンガー・カントライ(2CD)

バッハ研究は日進月歩で、耳慣れない演奏家による成果が続々誕生している。NHKFM「古楽の楽しみ」で礒山先生が随時紹介して下さっているので有難い。


9.ブクステフーデ:オルガン作品全集 ビーネ・カトリーネ・ブリンドルフ(6CD)

ブクステフーデのオルガン曲は、こんなにも色彩豊かなのか。まさに壮麗。バッハの地味なプロトタイプみたいに思っていたのだが。


10.チャイコフスキー:交響曲第4番、ドヴォルザーク:弦楽セレナード ラドミル・エリシュカ&札幌交響楽団

「悲愴」もそうだったが、エリシュカのチャイコフスキーは、男のパッションを感じさせる硬派な音楽になっている。札響の奮闘に拍手!


プラス1:清水靖晃:NHK 土曜ドラマ「夏目漱石の妻」オリジナル・サウンドトラック

傑作ドラマのサントラ。清水靖晃によるバッハの編曲モノも愛聴している。どれも独特にほのぼのした温かみがあって気に入っています。

無題
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エリシュカ&札響との10年

チェコ音楽マニアを自認しているのだが、当会会員のKさんから「ラドミル・エリシュカという指揮者を知っているかい?」と聞かれた時には、その名前すら耳にしたことがなかった。ネットで検索してもほとんど情報がない、目ぼしい録音も見つからない。小国チェコにそんな大指揮者が埋もれているとは信じられなかった。

その後、件のマエストロが来日し、NHKラジオの公開収録に登場することとなった(※オケは東京フィルと名古屋フィル)。それは限定的なお披露目だったにもかかわらず聴衆にも楽員にも好評で、反響を呼んだ。しかし、無名に近いマエストロが我が国のオケの定期演奏会に客演するのはなおハードルが高かった。

そんな中、いち早くエリシュカを評価したのは札幌交響楽団だった。多くのオケから客演を断られる中、札響の音楽監督だった尾高忠明が、これは畏敬すべき音楽家だと見抜き即決したという。

2006年12月の札響定期デビューはセンセーショナルな成功を収めた。1日目の演奏が評判を呼び、2日目のチケットは完売。英語が話せないマエストロは、まだ楽員とのコミュニケーションに不自由があったが、ある楽員は初顔合わせからこれが真の「マエストロ」かと強い印象を受けたと語る。演奏会については2chなどにも絶賛の書き込みが溢れたのを覚えている(当時ツイッターはまだなかった)。その一方で無名の老巨匠の札幌での成功を懐疑的に見る向きも少なくなかった。かなり早い時期からマエストロに注目し積極的に紹介した音楽評論家は池田卓夫、岩野裕一、東条碩夫らであった。

この成功を受けて札響は直ちにマエストロを首席客演指揮者に就任させた。この決断も早かった。就任会見で「札響のよいところは?」と聞かれたマエストロは「楽員が時間通りに練習にきて、ちゃんと予習をしてくれること」と答えた。社交辞令の全くない答えにずっこけたものだ。

マエストロはそれまで長く不遇な時期を過ごしていた。敬虔なクリスチャンだったため共産主義政権の覚え目出度い人物ではなかった。プラハより政治的に寛容なブルノの音楽院に進んだのもそれが理由だった。西側で知名度が低かったのは、西側向けの看板音楽家を政権が決めていたことと、マエストロがチェコ語とドイツ語しか話せなかったことによる。ただし、国内や東側では演奏旅行を行うなど評価は高かった。共産主義政権時代は、宗教曲の公演などに関して思想的制約はあったものの、音楽家の生活は保障されており、公演の頻度も高かったという。そして指揮者が一つのオケと深く長く付き合うのが普通のことだった。1989年のビロード革命により民主化が実現すると、チェコ音楽界にも資本主義の波が押し寄せ、環境は一変した。マエストロも含めチェコ人指揮者の多くは失職し、その後釜に西側の指揮者が座った。

マエストロは、その後、プラハアカデミーの指揮科で教鞭をとり、フルシャやネトピルなど次世代の育成に努めた。そして既に70歳を過ぎ、スター指揮者でなければ実質引退の齢に縁あって日本に来た。私はたまたまその縁と近い所にいたため、素人愛好家ながらマエストロと親交を結ぶことができた。

マエストロが日本に来て驚いたのは、演奏家のモラルの高さと熱意、聴衆の熱心さだったようだ。本国では「時間通りに練習にきて、よく予習をしてくれること」すら満たされない現場も数多く踏んできた。チェコのオーケストラ関係者にマエストロの評判を聞くと「毀誉褒貶」という。音楽的に高く評価されている一方で、お仕事として割り切って生活している楽員は昔ながらの綿密な練習に閉口するらしい。また、チェコでは演奏会の模様がメディアに活発にとりあげられたり、聴衆の反応がホール以外で現れたりすることはあまりないようだ。日本人がチェコ音楽に深い関心と理解を示していることも驚きだった。

マエストロはこれまで培った芸を残すため録音を切望していた。札響との1枚目のCDが出た時には感激して「神様がお許し下さるならば、ドヴォジャークの後期の交響曲の録音を完成させたい」としみじみ語っていたという。

神様は慈悲深い。「遅れてきた巨匠」は、いまや日本中のオケに客演し成功を収めている。特に2009年のN響定期に客演し、その模様がテレビ放映された時に名声は全国に知られ評価が固まったと思う。11月には12枚目のCD(※12枚のうち11枚が札響との録音)が発売された。これで後期交響曲や交響詩集等、ドヴォジャークの主要作品、スメタナの『我が祖国』、ヤナーチェクの『シンフォニエッタ』『タラス・ブーリバ』、それに知る人ぞ知る傑作、ヴォジーシェクの交響曲(!)と、チェコ音楽定番の名曲をほぼ録音し終えて、現在、チャイコフスキーとブラームスの交響曲の録音が進んでいる。

これらの録音は、この10年間の札響の成長記録としても貴重なものだ。この成長は、エリシュカに限らず魅力的な指揮者を迎え、質の高い演奏を重ねてきたことによる。もともと名手が多いオケではあるが、明らかに音量が増し、響きが豊かになり、アンサンブルの精度が上がったことにより表現の幅が広くなった。初期の録音も遜色あるものではないが、近頃の録音は特に素晴らしい。

エリシュカCD2016


今回のCDに収められたドヴォジャークの弦楽セレナードを聴くと、エリシュカ&札響コンビの歩みを思いしみじみしてしまう。このボヘミアの歌心が染み渡ったような弦楽アンサンブルの素晴らしさ。感傷に流れず、暖かく繊細な共感に満ちている。この時の公演の後、マエストロを訪れると飛び掛かるように私の手を握って、「この弦楽セレナードは、本当に本当に難しい曲なんだよ!」とおっしゃっていたのを思い出す。

私が一つだけ残念に思うのは、マエストロの日本での活躍が本国チェコも含め海外ではまだ十分知られていないことだ。紹介のため海外の知人にCDを贈り、大変好評を得ているのだが。マエストロのドヴォジャーク解釈は、ターリヒ、ノイマンやクーベリックに続く世界標準になりうるものだと思う。

昨年、チェコの作曲家スデニェク・シェスターク博士にCDを贈ったところ、こんな返信をいただいた。チェコ人から見てもエリシュカ&札響の達成は驚きのようだ。

私はこのCDを数名の友人に聴かせて、誰が指揮し、どこのオケが演奏しているか当ててもらいました。皆、例外なく著名なオケだと思いました。そして私がこれはエリシュカ氏と札響による演奏だと明かすと皆がどんなに驚いたことか!

マエストロは現在85歳。仲の良い奥様とともに益々元気いっぱいである。聴衆から愛され、オケの楽員から尊敬を集め、自らの芸に打ち込んでいる。我が街、札幌との不思議な縁を思うと感慨深いものがある。

METライブビューイング、ドニゼッティ『ロベルト・デヴェリュー』に興奮!

METライブビューイングのドニゼッティ『ロベルト・デヴェリュー』を観てきました。ヴェルディやプッチーニはともかく、普段あまりイタリアオペラを聴くことがないのですが、イングランド女王エリザベス1世が登場するテューダー朝三部作のラストと聞き、劇場に足を運んでみました。

物語はやはり三角関係。エリザベス1世(エリザベッタ)の寵臣、エセックス伯ロベルト・デヴェリューは、反逆の罪に問われ逮捕される。女王は、年下の情夫でもあるロベルトの有罪判決を渋るが、反逆以上に心変わりを疑い愛憎半ば。実はロベルトは、かつての恋人、今は親友ノッティンガム公爵の妻であり女王の侍女でもあるサラに思いを寄せていた。ノッティンガム公はロベルトの助命を嘆願し、女王はロベルトの心変わりに怒りながらも処刑に同意したくない。サラはロベルトに逃亡を勧め、彼に別れの記念にと刺繍のスカーフを渡すが、それを逃亡中に押収され二人の関係が露見。ノッティンガム公は友の裏切りに怒り、サラは無実を訴え、遂にロベルトは処刑され、女王は嘆き、とまあこんな筋です。

ソンドラ・ラドヴァノフスキーのエリザベッタ、エリーナ・ガランチャのサラ、マシュー・ポレンザーニのロベルト、マリウシュ・クヴィエチェンのノッティンガム公爵、この4人の強力なベルカント歌手がハイテンションでずっとやり合っているようなオペラで、『イル・トロヴァトーレ』並に熱い作品でした。でもドニゼッティだから深刻な場面でもドイツオペラのようにくすんだ陰鬱さはないのですね。基本は長調、ただただ強烈なベルカントの応酬でぐいぐい畳みかける。

歌手は歌唱も立派だが演技も見事でした。とりわけ女王のソンドラ・ラドヴァノフスキーが素晴らしい。女王は情夫の裏切りを憎み、彼を容易に処刑できる権力を持ちながら、彼を失うことを怖れる孤独な立場。この凄味と弱さを両面備えた激しい歌唱で、最後には権威も何も失ってボロボロになって譲位する。実にドラマティックです。ベルカントがこういう芝居でこれほど劇的効果を発揮するとは正直思っていませんでした。モダンな作品のようにドラマのリアリズムを追求するよりも、歌舞伎のような様式的な面白さを感じました。

マシュー・ポレンザーニは甘く強靭な美声で丁寧な表現をするテノール、エリザベッタとの掛け合いには興奮しました。ラトビア出身のメゾソプラノ、エリーナ・ガランチャはモデル並の美貌と共に太く深々とした声質による貫禄の歌唱が印象的で、もっと色々聴いてみたくなりました。マリウシュ・クヴィエチェンも力強い歌唱で性格的な演技も良かった。加えてメトのオケが優秀で、老練なイタリア人指揮者のマウリツィオ・ベニーニが煽る煽る。とても痛快な舞台でした。難曲だけにドニゼッティの中ではあまり上演機会のない作品で、私もこれまでタイトルすら知らず、メトでもなんとこれが初演だそうですが大傑作ですね。演出は劇中劇という形を取っており、美術・衣装は贅を尽くした壮麗なもので見応えがありました。DVD化が待たれます。

独房の中のイェヌーファ~新国立劇場『イェヌーファ』を観て

新国立劇場の『イェヌーファ』初日を観てきました。以下、感想メモです。演出に関してネタバレを含みますのでご了解ください。

***
ヤナーチェク:歌劇『イェヌーファ』
新国立劇場
2月28日(土) 14:00~
http://www.nntt.jac.go.jp/opera/jenufa/
https://www.youtube.com/watch?v=jBLGP50bDh8&feature=youtu.be

クリストフ・ロイ演出の舞台装置はきわめて簡素である。冒頭、コステルニチカは看守に連れられ舞台に登場する。彼女は嬰児殺しの罪で逮捕され拘置されるところなのだ。そこは真っ白な壁に囲まれ、小さなテーブル以外何もない殺風景な空間。ドラマはその独房の中の彼女の回想から始まる。イェヌーファやブリヤ家のお祖母さんは、回想するコステルニチカの傍らに現れ、曲が始まる。

この真っ白で殺風景な空間は、多少のアレンジはあるが、全幕を通じて舞台を占める。それは寒村の因習的な閉塞感を表すと共に、登場人物間で共感できる背景を欠いていることを表しているのだろう。コステルニチカはイェヌーファを愛し、イェヌーファはシュテヴァを愛し、ラツァはイェヌーファを愛するが、それらは第3幕の最後でコステルニチカが告白するように相手への思いやりを欠いた身勝手な感情にすぎないのかもしれない。第2幕のコステルニチカの小屋では、出産したイェヌーファが隠され守られているのだが、精神病患者が監禁・隔離されているようにも見える。

ラストでイェヌーファとラツァは白い空間から抜け出して暗闇に向かっていく。これは閉塞からの脱出という点では希望だが、やはり背景を欠いた黒。二人の将来に共感や希望があるのかは不明だ。これは観客に安易な情緒的解決を与えない、辛口の演出と言えるだろう。

この演出はベルリンドイツオペラにおける上演がDVDになっている。主要なキャストも今回の新国の上演とほぼ重なる。このDVDは、グラミー賞にもノミネートされ評論家の評価はとても高いようだ。私もこれを観て今回の上演に臨んだ。

率直に言って、私はこの演出には当初かなり抵抗感があった。衣装は現代風だが奇妙な読替を行っていないので、ドラマの本筋を外れたものではない。とは言え、舞台セットがあまりにシンプルなので演出家の意図は汲めるが、視覚的に単調に思われた。『イェヌーファ』が本来持つ地方色を容赦なく切り落とした演出は、作品本来の味わいを減じているように思えた。『蝶々夫人』が日本という文脈から離れられないように、『イェヌーファ』もモラヴィアの民俗性から離れて欲しくないと思った。そんなモヤモヤを抱えながら、新国の上演に臨んだ。

結果、素晴らしく感動的な上演だったと思う。
2幕くらいから胸が詰まって、ただただ鼻水を垂らしながら泣いていた。DVDの印象とどこが違うのか。それは、チェコ人指揮者トーマス・ハヌスの解釈がこの作品本来の演劇性を強化し、辛口の演出と相乗したことによる。

ヤナーチェクのオーケストレーションは独特の響きがする。CDで耳に馴染んだ作品もライヴで聴くと意外な発見が多い。今回もそうだったが、特にハヌスはチェコ語が母国語だけあってオケと言葉との絡みが優れていたように思う。ヤナーチェクのオペラは、朗々としたアリアや二重唱の旋律で聴かせるわけでも、分厚く雄弁なオケの響きで聴かせるわけでもない。ポツンと心情を吐露した短い一言にこそヤナーチェクの音楽の醍醐味がある。オケの響きはむしろ薄く、旋律的な流れとは異なる表現的な音型が混じる。「私の心は復讐に燃えている」とか「恋心に胸が張り裂けそう」というようなドラマチックな文句ではなく、「私はお前に賭けていたのに」「人生ってこんなものだとは思わなかった」「小さい頃からあいつばかり可愛がって」というような言葉が胸に迫ってくるのが『イェヌーファ』の魅力だ。美しい旋律が多いがほとんどは短く、情緒的気分を引きずらない。音楽に詞が付いているというより、台詞に節がついている風だ。ハヌスはそんなヤナーチェクの特徴を熟知しスコアを読みこんでいるように思えた。並の指揮者なら何気なく通りすぎる一節もテンポを落として丁寧にオケと噛み合わせる。そうすると繰り返される表現的な音型が浮き立って心理的効果を生む。そして随所で、たっぷりと沈黙の間をとる。その間の後、無伴奏で歌が入る箇所が多いが、何とドラマに真実味がこもっていたことか。それは簡素な舞台だからこそモダンな表現として活きるところも多々あった。東京交響楽団は、ヤナーチェクの主要作品をセミステージ形式で上演した実績があるだけにツボを押さえた優れた演奏で、第2幕におけるヴァイオリンソロも美しかった。

歌手は総じて大変良かった。DVDで観たベルリンドイツオペラの上演よりずっと良い出来だった。ベルリンの上演では、オケと言葉の絡みに若干齟齬があったため、実力派の歌手達はもっと語って欲しいところまで歌詞として歌い過ぎていた。そこがどうも不満だった。今回の上演では、言葉が上手くはまっていて、言葉と結びついた演技も光る。

タイトルロールのミヒャエラ・カウネは、イェヌーファの精神的成長をよく表現していた。第1幕では若い娘らしい浮薄さと共に継母譲りの思慮も備えている。第2幕では不安定なシングルマザー。第3幕では苦難を受け止めながら他者に赦しを与える存在。そういうフラットではない女性像を柔らかく丸みのある声で丁寧に歌い、語り、演じていた。ベニャチコヴァーやマッティラと共に重要なイェヌーファ歌手だと思う。

ラツァ役のヴィル・ハルトマンも、第1幕は嫉妬に駆られた捻くれ者だが、2幕以降は罪を悔いイェヌーファに献身する男を好演し、特にイェヌーファとの対話の場面で彼女に語り掛ける柔らかい歌唱が感動的だった。

コステルニチカ役のジェニファー・ラーモアはパワフルな歌手だが、DVDでは歌い過ぎていてやや平板に思われた。だが今回の上演では、硬直した役柄が上手くオケの響きにはまって歌唱にならない台詞のような部分(例えば第2幕の幕切れ「死神が覗き込んでいるよう!」等)の表現にも凄味があった。

シュテヴァ役のジャンルカ・ザンピーエーリは、「ゲスの極み」な「チャラ男」を好演してキャラ立ちしていた。同じテノールのラツァと好対照で声質にも楽天的な甘さがあり良かった。

そして流石に貫禄だったのは、ブリヤ家の御祖母さんを歌った72歳の名歌手ハンナ・シュヴァルツ。端役なのだが、深い響くメゾソプラノの存在感に驚いた。

日本人歌手も皆、好演しており、村長(志村文彦)やカロルカ(針生美智子)が印象に残った。合唱も優れており、特に群衆としての活き活きとした動きが見事だったと思う。

***

今回、ヤナーチェク作品を取り上げ、プレイベントまで開催して下さった新国立劇場のスタッフの皆様には心から感謝いたします。おかげさまで、今回の上演に合わせ当会の対訳解説書を増補改訂の上で出版することができました。今後も我が国でヤナーチェク作品が上演されることを強く期待します。

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2015年のディスク10+1選

新年おめでとうございます。
今年も本サイトをよろしくお願いいたします。

さて、以下は毎年恒例で綴っている昨年に聴いたCD・DVDの私的十選です。順不同。昨年発売のものに限らず旧録音も含んでいます。

昨年のキーワードは、
「FMラジオとツイッター」
「古楽三昧とルイ14世没後300年」
「札響新時代」
「新たな才能」
といったところでしょうか。

昨年は、毎朝、NHKFM「古楽の楽しみ」を聴くのが習慣になり、ツイッターしながらラジオに親しむことが増え、古楽三昧の年でした。そのおかげで例年になく未知の作品や演奏家との出会いが多かったように思えます。ワーナーの古楽廉価盤シリーズ「オリジナーレ」にも随分お世話になりました。

アニヴァーサリー関連では何と言ってもルイ14世没後300年で、関根敏子先生が案内された特集もありフランスバロックに浸り、この時代の音楽を周辺まで俯瞰出来たのは収穫でした。また、今更ながらレオンハルトの偉大さを想い、ジョン・タヴァナーの神秘的なポリフォニーに夢中になりました。

そして、ライプツィヒの巨匠マックス・ポンマーが首席指揮者に就任した札幌交響楽団の定期演奏会が毎回大変に充実した内容で、エリシュカ円熟のブラームス・チクルスは素晴らしいものでしたし、指揮者としてのハインツ・ホリガーに驚嘆しました(札響では未完成とオケコンを指揮)。

新たな才能としては、チェンバロの鬼才ジャン・ロンドーのデビュー盤をヘビロテし、ロシアのピアニスト、オルガ・シェプスの落ち着いたピアニズムにも魅せられました。

番外はやはり、きゃりーぱみゅぱみゅ。原点回帰を謳った一昨年末のアリーナライヴは彼女の総決算で、副音声の対談がクリエイティブでとても面白かった。そして、これまでの「歪んだ少女性」から脱皮した全国ホールツアー「Crazy Party Night 2015」がまた見事で2度行きました。

1.ハプスブルク帝国の近世音楽史~歴代皇帝の音楽, 諸民族の音楽~
グナール・レツボール(vn)指揮、アルス・アンティクヮ・アウストリア(10CD)
http://www.amazon.co.jp/dp/B00PTAU04C/

2.モンテヴェルディ:マドリガーレ集~マントヴァ 
ポール・アグニュー指揮、レザール・フロリサン
http://www.hmv.co.jp/product/detail/6095685

3.バッハ:モテット集
ペーター・コーイ指揮、声楽アンサンブル「セッテ・ヴォーチ」
http://www.amazon.co.jp/dp/B002USOVWI/

4.夜のコンセール・ロワイヤル~ルイ14世による『夜の王のバレ』再構築版
セバスティアン・ドセ指揮、アンサンブル・コレスポンダンス(2CD)
http://www.hmv.co.jp/product/detail/6622162

5.タヴァナー:『いばらの冠のミサ』 
ピーター・フィリップス&タリス・スコラーズ
http://www.hmv.co.jp/product/detail/6608904

6.Tribute to Gustav Leonhardt: the Last Recordings (5CD)
http://www.amazon.co.jp/dp/B007NM8DB6/

7.イマジン~J.S.バッハ:チェンバロ作品集
 ジャン・ロンドー(チェンバロ)
http://tower.jp/article/feature_item/2014/11/17/1101

8.シューベルト作品集
オルガ・シェプス(ピアノ)
http://www.amazon.co.jp/dp/B00888EOB2/

9.ブラームス : 交響曲 第2番、モーツァルト : 交響曲 第38番 「プラハ」、ウェーバー :「魔弾の射手」
 ラドミル・エリシュカ指揮、札幌交響楽団
http://www.amazon.co.jp/dp/B00ZBQ6FV6/

10.シューマン : 交響曲 第1番、第4番 (1841年原典版)  
 ハインツ・ホリガー 指揮、ケルンWDR交響楽団
http://www.amazon.co.jp/dp/B00ELVVC6U/

【番外】
KPP 2014 JAPAN ARENA TOUR きゃりーぱみゅぱみゅのからふるぱにっくTOY BOX (DVD)
http://www.amazon.co.jp/dp/B00VHC8RK0/

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発話旋律 "Speech Melody"
日本ヤナーチェク友の会公式サイト管理人Pilsnerのブログ
チェコ音楽を中心にした音楽雑記帳です。
The blog by the chief manager of Janáček Association Japan
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